「何故、ジジイは祖母を愛さなかったのか。それは彼女が子孫を増やすための道具にしか考えていなかったからだと、僕は思っている」
御堂家は女系だということは豊福も知っての通りだろう?
女系だった御堂家は祖父の代前まで本当に小さな財閥だったそうだ。
女じゃどうしても力が通らない時代だったというのも背景にあると思う。
ジジイが会長の座に君臨してから劇的に御堂家は変わったそうだ。
癪だがジジイは実力者だ。
御堂家を盛り上げた男としては名高い。
ただやり方が気に食わなかった。
あいつは人を蹴落としてまで頂点に立とうとする男だからな。
財閥共存よりも他の財閥を潰すことでまた一つ巨大な組織として作り上げていく。
あいつはそういうやり方を好む。
財閥界じゃジジイを恐れるところも少なくない。
当然憎む輩も少なくない。
ジジイは自分の死後を恐れて、今できることを徹底的にしてしまいたいんだろう。
いつまでも御堂家の栄光を保たせるために。
「だからこそ男が必要なんだとあいつは考えている。
……僕は時々思うんだ。自分が男だったら、もう少しマシなジジイを拝むことができたのか? 両親の気遣いに重みを感じることは無かったのか? と」
これこそが先輩の本音なのだろう。
俺は間を置かず、「じゃあ俺達」出逢うこともなかったかもしれませんね、静かに苦笑する。
だってそうだろ?
御堂先輩がこの性格だから変わり者の鈴理先輩や大雅先輩、宇津木先輩と幼馴染をしてこられたんじゃないか?
仮に友達だったとしても、俺達はこんなに深い関係になることはなかっただろう。
ましてや婚約とか、どこぞの宇津木ワールドだよ。
「貴方は女のままでいいんですよ」
貴方はそのままでいい……、そのままがいい。貴方はそのままが一番いい。
男装をしてもいい。ワンピース姿に恥らってもいい。攻め女だろうが、雄々しい女性だろうが、貴方は女性なんだ。
俺は一度たりとも貴方を“男”として見たことはない。
俺の中で貴方はまごうことなき女なんだ。
「少なくとも此処に、今の貴方のほうがいいって思う人間もいるんです。
どうしても否定するなら、俺が肯定しますよ。俺だけじゃない、きっと貴方の友達や両親も肯定側に立つと思いますけどね。
―――…今の自分を否定しなくていいんっすよ、先輩」
貴方の努力や気遣い、優しさはご両親にも俺にも分かっていますから。
王子に伝えると、ようやく彼女が顔を持ち上げ、俺に視線を留めてきた。
ぎこちなく笑みを零すけど、それは偽りの顔だって知っている。
うそつきな王子に、
「たまにはワンピースも着てくださいね」
あの時の姿は本当に可愛らしかったですよ、小さく笑みを零した。
すると御堂先輩が小声で、「豊福にだけ教えてやる」僕は女の子らしい服が嫌いなわけじゃない。ただ着慣れてないだけで恥ずかしいんだ。
「君が女の子ならもっと好きになっていた。さっきそう言ったけれど、それはないんだと確信している」
だって君を好きになったのは紛れもない女の僕なのだから―――…。
王子が泣声を漏らした。
「男が良かった」
男に生まれたかった。女に生まれなければ良かった。けれど女じゃなかったら君に会えなかった。
しゃくり上げる彼女は迷子になっているようだ。
俺が迷子になった時、彼女はいつも手を差し伸べてきてくれた。
なら、今度は俺が、おれが。
彼女の頬を包み、額に自分の額をのせ、俺は約束どおり、肯定の台詞を送る。
「女の貴方がいい。男の貴方じゃ嫌だ。女で王子の貴方がいいんです。俺の王子は女性なんです。先輩、そのままの貴方でいてください」
その状態のまま、王子が弱弱しく声を漏らした。
零れ落ちる雫は俺のスラックスに。伝い落ちる雫は俺の手の甲に。剥がれ落ちる心は俺の胸に流れてくる。
先輩、何かあるたびに俺のことをうそつきって言いますけど、貴方も大概でうそつきですよね。
本当はこんなにも彼女は傷付いているくせに、誰にも言わないんだから。
先輩も大うそつきだ。……優しい大うそつきだ。
夜空に輝く半月の光が射し込む格子窓を照らす。
閑寂に包まれた蔵の中で、ぬくもりを共有する俺達はいつまでもふたりぼっち。



