前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



  
そっと御堂先輩に視線を戻す。
 
表情は窺えない。分かるのは体を密接にしてくる彼女の体温が俺より低い、ということだけ。


「養子を取ればいいのにな」


ふと彼女が口を開いた。

男が欲しいなら養子を取ってしまえばいい。女の自分に期待を寄せていないのなら、いっそのことそうしてもらった方が気が楽だ。そうすれば僕と豊福はもっと自由にできる。

彼女の吐露に、「ご両親が泣きますよ」俺はやんわりと返す。
 
養子なんて軽々しく言っちゃ駄目だと思うんだ。
養子になる子も、親になる子も、それ相応の覚悟がいる。

血縁の無い(薄い)人間が家族になるってすっごく大変だって俺は知っている。特に親子関係は。

 
けれど御堂先輩の気持ちは変わらないらしい。

「いつもああなんだ」

祖父が毒を吐き、両親が庇って揉める。幼い頃からそうだった、彼女は蚊の鳴くような声で呟く。


「男じゃなかった。だから母は罵られて蔑視されていた。
手厳しい言葉に隠れて母が泣くこともあった。
同じように罵声を浴びせられた僕に何度詫びていたか。父はいつも母を慰めていたし、僕に悪くないと言ってくれた。

……それがな、時々重いんだ。どうしょうもなく。両親の気遣いもジジイの罵声も何もかも重くてどうでも良くなる」
 

 
優しさが重くなるんだと御堂先輩は吐息をつく。

昔は女の子らしい服が好きだったのに、罵られるだけそういった服を手放した。

一人称もいつしか僕になっていた。男が嫌いになり、女が好きになっていた。考えをかえようとは思わないけれど、祖父さえいなかったら少しはレディらしくなっていたかもしれない。


御堂先輩の独白に背景にどれだけ性別で責め立てられているのかが、薄らぼんやりと分かってしまう。

これはあくまで俺の憶測だけど、御堂先輩は両親や淳蔵さんの期待に応えようとしていたんじゃないのかな。

女だからと淳蔵さんを落胆させ、両親に気遣わせてしまう。
 

なら少しでも男らしく振舞って期待に応えようとしていたんじゃないだろうか。

 
子供なりに、家族を想っていたんだと思う。

それでも淳蔵さんは御堂先輩を認めなかった。

女の彼女を根っから受け入れなかった。愛そうとしなかった。生まれた時から今に至るまで存在を否定し続けた。

 
御堂先輩は傷付いたに違いない。


いや、現在進行形で傷付いているに違いない。


誰だってそうじゃないか。
自分の存在を否定されたら、誰だって。

手櫛で髪を梳いてやり、俺は彼女に一笑する。
 

「先輩は家族思いな人なんっすね」


男装という形を取ってまでずっと努力していた人なんですね。
 
その言葉は嚥下し、想いを込めて彼女に率直な感想を伝える。

何も答えない御堂先輩の腕がまた一段と強くなった。少々息苦しい。
 
 
「祖母の話をしてないよな」

 
御堂先輩は、俺におばあさんの話をしてくれた。
 
随分昔に、それこそ御堂先輩が生まれる前に亡くなっているそうだったけど、彼女はフランス人だったそうだ。

政略結婚させられた人で、生前は淳蔵さんからあまり大事にされていなかったらしい。
淳蔵さん自身が仕事人間だったせいだ。


それでも文句一つ言わず、おばあさんは淳蔵さんを愛し続けていた。


そして源二さんという息子を一人で育て上げた。

立派な女性だったのだと御堂先輩は目を細める。