積み重ねられたつづらや木箱の間を過ぎって俺は彼女の存在を探した。
現段階の俺のプリンセスは、いや俺のプリンスは一体何処にいるのだろう?
視界の利かない蔵を覚束ない足取りで歩いていると、微かに物音が聞こえた。
天を見上げれば真っ暗な視界ばかり。
けれど圧迫感があった。
どうやら蔵には二階があるらしい。
聴覚を頼りに俺は不安定な木造階段をのぼり、二階を覗き込む。
格子窓から月光が零れているせいか、二階は一階に比べて荷が少なく青白いながらも明るい。
俺は目を細める。
捜し求めていた王子を見つけた。
お行儀が悪いことに、頭の後ろで腕を組み格子窓の下で寝転がっている。
窓越しに夜空を見ていたようだ。
埃っぽいだろうに、飽きもせず窓の向こうを見つめていた。眼には羨望が宿っている。
何かを欲するような、うらやむような眼。
彼女は今、ナニを思って夜の空を見つめているのだろうか?
静かに階段をのぼきってしまうと俺は静寂を裂くように先輩の名を呼んで歩んだ。
視線だけ投げてくる王子は「来るな」素っ気無く言い渡し、俺の動きを止めてくる。
言われたとおり、足を止めた。
それを合図に上体を起こした彼女は、すぐに此処から立ち去るよう命じてくる。
今は誰にも会いたくないし、口も利きたくないし、傍にいて欲しくない。
放つ言葉にはやけに茨が巻かれていた。そして、その言葉は嘘偽りにしか聞こえない。彼女の本音ではないのだと、すぐ理解する。
だから俺は返事した。「嫌です」と。
ひたすらに格子窓を見つめている彼女は慰めにきたのは分かっているのだと鼻を鳴らす。
けれど、その感情は今の自分にとって不要なのだと苛立たしげに舌を鳴らした。嘘だ。表情こそ見えないけれど、背中が嘘だと物語っている。
傍にいることは迷惑かと質問をする。
一瞥もすることなく、迷惑だと返事する御堂先輩。そんな彼女に近付くことにした。だって口にすることと放つ態度が180度違うんだ。傍に行かなければいけない衝動に駆られた。
「傍に来るな!」
鋭い怒声が鼓膜を振動させる。
もう二、三歩の距離。三歩進めば、彼女に触れられる距離まで俺は近付いていた。
気配で分かったのか、彼女はしきりに離れるよう命じてきた。
あの彼女が俺に本気で“命令”しているんだ。
命令されたら最後、俺は従う他ない。そういう身の上だ。
これ以上の接近は無理だと判断し、俺はその場に腰を下ろした。
正座をして相手の背を見つめる。学ランを身に纏っている王子の背が妙に小さく見えた。
ようやく一瞥してきてくれた彼女は、「なんでそこにいるんだ」離れろと言っただろ? と問いかけた。
「離れていますよ」目分三歩ほど、返答にふざけるなと一喝されてしまう。
ふざけてはいない。本当のことだ。
「どうしても傍にいては駄目ですか?」
俺は貴方の傍にいたい、そう告げると慰めは要らないのだと繰り返した。
次の言葉に胸を抉られた錯覚に陥った。
「男の慰めなんていらない」与えられるだけ不快なのだと王子は言う。
つまるところ、今の彼女にとって男の俺は不快でしかないということらしい。
だから傍にいて欲しくないのか。
三歩分の距離が性別の壁を思わせてくれた。
それでも俺は今の彼女を放っておけない。
「傍にいたいんです」
俺もまた想う気持ちを繰り返す。
「借金ついで、だろ?」
借金があるから、だから傍にいなければいけない義務を持ってしまっているのでは? と御堂先輩。
「いいえ」貴方だから傍にいたいと言っても信用してもらえず、気にすることなく部屋に戻ればいいと冷たく返された。
彼女の苛立ちを肌で感じる。
もっと苛立てばいいと思った俺は、先輩が戻るまで部屋には戻らないと断言する。



