「彼が無理なら、それこそ別の相手に見合わせる。もしくは養子を作らせる」
どれだけ御堂先輩に財閥を継がせたくないんだろう。
女だから? 彼女が女だから駄目なの?
「養子なら」女の孫より使えそうだ。
淳蔵さんの一言に一子さんがやめてくださいと悲痛の懇願。
同時に御堂先輩が腰を上げて荒々しい足音を立てながら大間から出て行く。
「あ。先輩!」腰を浮かせる俺に対し、「お父さん!」源二さんは娘の侮辱はやめてもらいたいと眉根を寄せて反論した。
どんなに男勝りな子でも、彼女は女の子。
物の言い方には傷付く年頃なのだと言う。
それは弱いからだと淳蔵さんはせせら笑い、だから女は駄目なのだと言い放った。次いで、俺に座るよう命令する。
まだ俺への話は終わっていない。
あれは放っておけ、随分な物の言い草に俺は握り拳を作る。
でも追い駆けられなかった。
すぐにでも追い駆けたかったのに、俺もまた淳蔵さんの命令には逆らえない身分。
腰を下ろすしかなかった。
俺には御堂家の家庭事情なんて、よく分からないけれど、分かりっこないけれど、一つだけ分かる。
御堂先輩は絶対に傷付いている、と。
ようやく淳蔵さんに退室許可を貰った俺はその足で御堂先輩の自室に向かった。
傷心を抱いた彼女が篭れる場所といえば、そこしか思い浮かばなかったから。
でも御堂先輩はいなかった。
障子向こうにいると思って声を掛けたけど、応答なし。
失礼だと分かってはいたけれど、障子を開けて中を確認した。
部屋はもぬけの殻。
そこで場所を移動して家内をうろつきまわる。
御堂夫妻の部屋付近を探し回ってみたり、茶室を訪れてみたり、女中を捕まえて行方を聞いてみたり。
さと子ちゃんに聞いてみたけど情報は手に入れられなかった。
困り果てながら家内をうろついていると、お目付けの蘭子さんに声を掛けられる。
俺が彼女を捜していると知ったらしく、情報を提供してくれた。
そこは庭園の奥地にある蔵。
さと子ちゃんが以前、蔵の陰で泣いていた場所だ。
これまたご立派な蔵で瓦屋根が俺を厳かに見下ろしていた。
横開きする扉が半開きになっている。
まるで蔵の中に招かれているようだ。薄気味悪さを感じつつ、俺は迷うことなく戸を引いて中に足を踏み込んだ。
月光が差し込むその中は、沢山の物で溢れかえっている。
一々物を把握することはできないけれど安易に触れてはいけなさそうなつづらやダンボール、木箱が目に付く。
貴重品が入っているんだろう。
ダンボールの側らで侘しく転がっている掛け軸の束を見つけ、目を細める。
埃が舞い上がっているのが月光の青白い光によって分かった。
あまり空気の入れ換えはされていないらしい。
まるで此処だけ時間に取り残されたような、褪せた空気を肌で感じる。



