「まったく」お前の躾はどうなっているんだ。
一変して口調を荒くする淳蔵さんは、ただでさえ息子を産めなかった恥さらしが……、と口汚く一子さんを罵った。
いつもこんなカンジなんだろう。
源二さんが一子さんや娘を庇っても聞く耳を持たない。
御堂家は女系から脱さないとこれからの時代、必ず他の財閥に食われて泡沫と消える。
所詮女は男に守られて果てる生き物。
ビジネス界にとっては足手纏いなのだと決め付けたように言ったところで、淳蔵さんはころっと表情を変えた。
「すまないね」驚いただろ? と俺に微笑んでくる。
このギャップに俺は慣れなかった。
一貫して罵るような性格ならまだしも、表裏ある性格は慣れない。
俺にはそれを意見する権利は無かったけどさ。
「君の使命は二つ」
財閥の糧になること。そして息子を作ること。
これが果たせなければ、御堂家に恩を返したとは言わない。
分かるね?
君の人生は誰のものか、どうするべきかも。
淳蔵さんの問い掛けに俺は首肯した。
それは以前にも言われたことだ。
“御堂家のために生き、そして死になさい”
それが俺の尤もすべきこと。今も、そしてこれから先もずっと。
「分かっているなら話は早い。豊福くん、これから暫く家庭教師をつける」
「家庭教師、ですか?」
「既に源二達には許可を得ている。なに、安心しなさい。一般常識を得てもらうために付けるだけだよ」
「で、ですが…」
「問題でも?」威圧さが増す。萎縮しながらも俺は率直に意見した。
「家庭教師を雇うようなお金は、俺のバイト代で賄えるものなのでしょうか?」