「少しでも攻め不足を補いたいから、あんたを使っただけじゃないか」


十二分に充電しておかないと、勝負には勝てない。

当然の如く胸を張る鈴理先輩に、「男にするか?!」俺は幼馴染をやめたくなったと大雅先輩が喝破する。

「昨日だって俺をエスコートしやがっただろう?! 赤っ恥掻いただろうが!」
 
「レディーファーストという言葉があるだろ?
よって車に乗る際、あんたをエスコートしただけじゃないか。一応婚約しているんだ。今、攻めをぶつけられるのはあんたしかいないし」


「俺は男だ!」


「阿呆か。あたしは攻め女だぞ。ポジションは男だ。となれば必然的にあんたが女役になるのだから、エスコートしても良いじゃないか! ナニがおかしい!」

 
熱を入れて主張する鈴理先輩に最悪だと大雅先輩は苦虫を噛み潰したような顔を作った。
 
他にも唐突に横抱きをされたり、アリス服を持ってきたり、カメラを構えられたりしたらしい。

容易に想像できてしまい、俺は誤魔化すように咳を零す。

どうしたって唇が歪曲になってしまうのは、俺の性格が意地悪いからか?

だって美形男が俺と同じようなことをされているとか、ちょ、笑えてしょうがないんだけど。

なるべくお茶を飲む振りをして口元を隠すんだけど、「おい豊福!」テメェ笑っているだろ! そうだろう! テーブルを叩いてギッと彼に睨まれてしまう。


「いやいやいや、滅相もないっすよ」
 
 
返事して俺様と視線を合わせる。
 
ぶはっ、お茶を噴出したのはこの直後のこと。

だ、駄目だ。
元カノであろうとなんだろうと、攻め女と受け男(予定)のやり取りは笑っちまう。

悲惨だ。目に毒。自分がされているからこそ、笑いのツボを押される。

 
か、か、可哀想に。美形が台無しだ。


「豊福テメェ!」

 
悔しそうにテーブルを喧しく叩いている大雅先輩に、俺は満面の笑顔を作って助言を送ることにした。

 
「先輩。受け男になるには些少のプライドを捨てることっす。そしたら、ある程度のことは許せるように「冗談抜かせ!」


えー、これが一番だと思うっすよ。じゃないとやっていけないし。
 
折角助言してあげたのにと肩を竦める俺に、「大体テメェがな」鈴理の攻めをとことん許していたからこうなっているんだぞ! 元カノの婚約者が責任を擦り付けてきた。


そうは言っても、そんな攻め、超序の口ですし。
 

ほら、目を閉じれば思い出す。

あーんなことやこーんなことをされた挙句、人様の前でっ、あああっ、羞恥が込み上げてきた。爆死しそう。
 
「大雅さん。駄目ですよ、攻められては!」

と、此処で大雅先輩の想い人が意見する。
 
「貴方様はカッコイイ人なんですよ」

攻められては折角のカッコ良さが褪せてしまうと宇津木先輩。当然、大雅先輩は褒められてちょっち照れたわけなんだけど。


「わたくしは大雅さんが楓さんや空さんを押し倒している姿の方が好ましいのです!」


ふふんと弾んだ声音と共に両手で拳を作って熱弁している宇津木先輩。「だと思った」大雅先輩ががっくり肩を落とす。

ぬか喜びになった俺様、哀れ。同情するっす。