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前略、今日も不況という波に抗おうと汗水垂らして働いている父さん母さん。
 
 
あなた方の息子は最近の事態についていけず、ひとり途方に暮れています。

毎日が急展開、毎日がハプニング、毎日が奇想天外。おかげさまで激流にでも呑まれたかのように日々が目まぐるしいです。
 

事の発端は元カノの婚約式からですかね。
 
元カノの婚約式に呼ばれ、鈴理先輩と別れ、借金を負い、婚約者ができ、そして“三ヶ月”という期間を見守ることになったのですから。

 
“三ヶ月”という限定された期間で鈴理先輩は大雅先輩と婚約を破談すると宣言しました。

元カノが自分の人生を自分で選びたいからと、ご両親や俺の想いを一蹴して行動を起こし始めた彼女には複雑な念を抱いてます。

約束された幸せより、自分で幸せを掴むことを選んだ彼女。
 
そのために物心つく前から結ばれていた幼馴染との関係を変えるなんて、果たしてできることなんでしょうか。

 
父さん、母さん。
 
あなた方ならナニが正しいと思いますか? 彼女の起こしている行動が正しいのか、それとも。


「そーら。来てやったぞ。昼飯を食いに行こう!」
 
  
……、急展開過ぎて本当についていけねぇや。
 
廊下から手を振ってくる鈴理先輩の姿を目にした俺はガックシと肩を落とした。
 
 
昼休み始まりのチャイムが鳴った頃合を見計らい、元カノが1年C組に襲撃してきた。

気軽に飯を食えるような立場じゃなくなったのにも関わらず、彼女は開き直ったかのように俺の名前を連呼しておいでおいでと手招きしてくる。

傍には大雅先輩がいるんだけど彼女を止めてくれる気はサラサラないらしい。
寧ろ、「とっとと来いよ」とご命令してくるという……二人とも勝手過ぎる! 嗚呼、もう、クラスメートがこっちを見ているじゃないか!


「約束なんてしていませんよ」


勉強道具を片付けながら、俺は教室から彼らに返事した。

「だから今誘っている」

何か文句でも? 首を傾げてくる鈴理先輩に、「大有りです」鼻を鳴らしてお断りですよ、と突っぱねる。

 
御堂財閥の令息になる男が元カノ(しかも財閥の令嬢)と気軽に食事なんで出来ないだろ?

この場に御堂先輩がいるならまだしも、彼女は他校生。
婚約者の許可なしに誘いを受け入れることは出来ない。
 
けれど鈴理先輩はめげないどころか、「一友人として誘っているのだが?」あんたから言ったよな、良き友人でいると。

あたしは良き友人として、先輩として誘っているのにまさか断るのか断ってしまうのかああん? みたいなオーラを出された。

 
文字通り、脅されている気分である。


でも俺も負けてはいられない。
 
丁重にお断りしようと口を開いた、が、彼女がすかさずたたみかけてきた。


「友人と食事をするのに玲の許可がいるのか?
では問おう。いつも空と一緒に食事をしているであろう彼等は玲の許可を取っているのか? ん? 取っていなさそうだな? ならばあたしの主張は通る筈だ。つまるところ、あんたは誘いを断る理由などないのだ」


あっさり負けた俺をどうぞ笑い飛ばして欲しい。

ええ、おりゃあ負けましたよ。反論する術もねぇ!