「僕は君にしてもらいんだ」


振り返って婚約者を見つめる我が儘な娘。
 
間髪容れず、「しょうがない王子様っすね」微笑を零して彼はその主張を受け入れる。
 
ある程度、髪を拭いてもらうと娘は満足したのか婚約者の膝の上に寝転んだ。

「まだ乾き切ってないっすよ?」

変に寝癖がついたどうするのだと注意しても娘は知らん顔で膝を陣取っている。
 
憮然と娘を見下ろしていた彼は湿ったタオルを畳み、そっと額に手を置いて甘えたな人っすね、優しい笑みを向けた。


「野郎の膝枕なんて寝心地悪いでしょうに」

「女の子よりかはね。女の子は柔らかいぞ」

「してもらったことがあるんっすね。どんだけ女の子が好きなんですか」
 
 
親としては笑えないことでも、彼は笑い流すことができる人種らしい。


「王子はモテちゃんですね」


彼が冗談交じりに肩を竦めると、「僕の姫はひとりしかいないよ」娘が頬を崩した。そっと手を伸ばし、彼の頬を撫でる。
 

「いとおしいと思う人間は、ひとりしかいないんだよ」

「おやおや。俺は口説かれているんですかね? 照れておくべきでしょうか」

「ムードを読まない奴だね。そこは黙って頬を赤くしておく場面だよ」

「すんませんね。俺は空気を読まない姫なんですよ」

「じゃあ嫉妬は? それくらいは期待していたんだけど?」


「貴方はそのままでいいんですよ。俺の彼氏でいい。女の子が好きでいい。無理に男嫌いをなおさなくてもいい。有りの儘でいて欲しい」


俺はそんな貴方を意識し始めているのですから。
 
夜風にのった告白は縁側を吹き抜け、庭園に舞い上がる。

照れるのは娘のようだ。
何も言わず、彼の胴に手を回してぬくもりを求めていた。

片手で短髪になった頭をわっしゃわしゃ撫でる彼に安心し、信頼を寄せ、甘えきっているようにも見える。


 
「貴方様、涙が出てきました」



奇跡としか思えない、一子は感涙を流し、源二がそっと妻の肩を抱いた。
 

これぞ親の夢見ていた光景である。

少しばかし、女性色が足りないような気がするが、立派に男女の憩い光景が繰り広げられている。

是非ともこの光景が続いて欲しい。願わずにいられなかった御堂夫妻だった。


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