「真衣!」桃子が呼び止めても次女は振り向きもしなかった。
誰より物おとなしい次女の憤りに桃子は困惑する他ない。それは英也も同じことだった。
苦笑を零す長女は、「イエスの良い子ほど」感情を溜めやすいものなんですよ、と目を伏せる。
「真衣も鈴理とは別の理由でずっと家庭環境に苦しんでいたんです。
あの子は誰より期待された子、プレッシャーは勿論、姉妹間の仲がぶれてしまうのではないかと不安がっていました。
一番仲の良かった鈴理が一緒にいたがらなくなったのですから、当然の不安でしょうね。
だからこそ今回は感情的になってしまった。真衣もまだ子供なんでしょうね」
まあ、気持ちを爆発させたからって現状が変わるわけじゃないんですが。
ソーサーから紅茶の入ったカップを取り、咲子は音を立てながらそれを啜る。
静まり返る書斎。
ふと桃子が一呼吸置き、「咲子は」今の現状をどう思っているの? と質問する。
家庭環境について尋ねられた長女は目で笑い、「秘密です」言ったところでどうしようもないからとおどけた。
「ただ、そうですね。あの頃よりは姉妹の関係は褪せた気がします。瑠璃が寂しがってますよ。姉の私達がちゃんと遊んでくれないって」
おかしいですね。
お父様もお母様も私達の幸せを願っている筈なのに、理想と現実は反比例している。常に相反するものなのかもしれません。
「けれどできることなら、私もあの頃に」
その先を言わない長女に、英也は口を閉ざして書斎の天井を仰いだ。
長女の言うとおり、理想と現実は常に反比例している。
親としては幸せになって欲しい。
ただそれだけなのに、気付けばこうも擦れ違っている。



