前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「真衣!」桃子が呼び止めても次女は振り向きもしなかった。

誰より物おとなしい次女の憤りに桃子は困惑する他ない。それは英也も同じことだった。

苦笑を零す長女は、「イエスの良い子ほど」感情を溜めやすいものなんですよ、と目を伏せる。
 

「真衣も鈴理とは別の理由でずっと家庭環境に苦しんでいたんです。
あの子は誰より期待された子、プレッシャーは勿論、姉妹間の仲がぶれてしまうのではないかと不安がっていました。
一番仲の良かった鈴理が一緒にいたがらなくなったのですから、当然の不安でしょうね。

だからこそ今回は感情的になってしまった。真衣もまだ子供なんでしょうね」

 
まあ、気持ちを爆発させたからって現状が変わるわけじゃないんですが。

ソーサーから紅茶の入ったカップを取り、咲子は音を立てながらそれを啜る。
 

静まり返る書斎。

ふと桃子が一呼吸置き、「咲子は」今の現状をどう思っているの? と質問する。


家庭環境について尋ねられた長女は目で笑い、「秘密です」言ったところでどうしようもないからとおどけた。
 
 
「ただ、そうですね。あの頃よりは姉妹の関係は褪せた気がします。瑠璃が寂しがってますよ。姉の私達がちゃんと遊んでくれないって」
 
 
おかしいですね。

お父様もお母様も私達の幸せを願っている筈なのに、理想と現実は反比例している。常に相反するものなのかもしれません。
 

「けれどできることなら、私もあの頃に」


その先を言わない長女に、英也は口を閉ざして書斎の天井を仰いだ。

長女の言うとおり、理想と現実は常に反比例している。



親としては幸せになって欲しい。



ただそれだけなのに、気付けばこうも擦れ違っている。