もしも君が財閥の女子に虐げられることがあれば、きっと僕は彼女達を突っぱねてしまうだろう。

それだけ大切なんだと言ってくれる男嫌い王子に、「俺を受け入れてくれてるんっすね」ありがとうございます、と目尻を下げる。

男嫌いは早々治らないだろうに、男の俺をこんなにも受け入れてくれる。傍にいて支えてくれる。感謝すべきところだ。

そんな彼女の気持ちに報いたい。だから俺も受け入れよう。男装少女の嗜好を、男を目指す気持ちを。
  

「俺が何故、受け男であり続けると思いますか?」

「望まれたから、じゃないのか?」


櫛を手に持ち、それを眺める。
 
竹製品の櫛はとても高そうだ。歯がきめ細かい。

指で軽く弾き、返答を待つ彼女と視線を合わせる。



「それもあります。けれど、それだけじゃ俺は拒絶するんですよ。
実際、鈴理先輩に強いられていた頃は逃げてばかりでした。女扱いすら嫌で仕方がなかったんです。

なのに、こうして受け入れるようになった。それは俺自身が相手を喜ばせたいと思うようになったからです」
 

今でも逃げることはいっぱいなんですけど、それでも俺は相手の喜ぶ顔を見ることで少しならず嬉々しました。
 
嗚呼、そうか。草食男にできる俺なりの愛情表現はこれなんだ、と思えるようになったんです。

今でもリード権を持ちたい、男ポジションに立ちたい、攻められるものなら攻めたいと思う俺がいます。
 
 
けれどそれ以上に攻め女を受け入れたい俺がいる。
だから受け男であり続けるんですよ。
 

「世間がどう思うが構わない。情けないと罵られてもいい。俺は攻めたいと切望している女性を受け入れたいのだから。

いざという時だけ男として女性を守れたらそれでいい。

―――そう思える人は限られているんっす」


彼女がそっと寄りかかってきた。体を受け止める。

滑るように膝に頭をのせた彼女は胴に腕を回し、体に顔を押し付けた。折角結った髪が俺の膝から畳にかけて散らばっている。

「男は嫌いだ」ぽつりと呟く御堂先輩に相槌を打つ。

「男装をやめるつもりもない」それにも相槌を打つ。

「女の子が好きなんだ」知っていると返事した。


「それでも僕は君が好きなんだ。男の君を好きになってしまったんだ。僕は君の王子であり続けたい。この三ヶ月で僕は君の、本当の王子になる」


ここで好きを返すことない。
 
俺にそこまでの気持ちはないと知っているのだから。真摯な告白が穢れてしまう。なら、今の気持ちをありのままに。
 

「守ります、貴方の姫として。必ず。だからありのままの貴方でいて下さい。貴方が俺にそう言ってくれたように」
 

頭を抱き締めた後、散らばった髪を一束掬った。

「勿体無いな」洗うには手間の掛かる髪だったけれど、僕はわりとロングがお気に入りだったみたいだ。


独り言を零す彼女に、うんっと首を傾げる。なんの話だろう?