「先輩、座って下さい。髪、結いなおしてあげますよ」
ほどけそうな後ろ髪に気付き、俺は彼女に座るよう指示した。
最近、一緒に寝起きしているせいか、彼女の髪を梳いたり、結ったりするのが日課となっている。
嬉しそうに胡坐を掻いてゴムを取っ払う御堂先輩は、随分髪が伸びたな、と自分の髪をつまんだ。
箪笥から櫛を取り出した俺は彼女からゴムを受け取り、その場で膝を折って正座をする。
「いつ見ても綺麗っすね」
亜麻色の長い髪を手にとって櫛で梳く。
一本一本が絹糸みたいだ。
本人は殆ど手入れをしないらしいけれど枝毛は見当たらない。
「豊福は長い方が好きかい?」
振りかえろうとする彼女に前を見ておくよう指示し、どちらも好きだと答えた。
「でもどちらかと言えば、ロングの方が好きっすね。髪を解く瞬間を見るとドキッとします」
「じゃあ僕にもしてくれるのかい?」
「はい」素直に返事すると、「……恥ずかしい奴だね」御堂先輩は不貞腐れたように肩を竦めた。焦る俺を見たかったんだろう。
笑声を噛み締めた。一本取ってやった気分だ。
「君は男装する僕のこと、どう思う?」
ふと話題が切り替わる。
櫛に髪を通しつつ、「カッコイイ女性ですよ」それ以上も以下もないです、と返事。
「女の子の中にはね」
こんな僕を“男”同然として見る人もいるんだよ。
告白されたこともあるのだと暴露してくる。
驚きはしない。
彼女の女前らしい性格や立ち振る舞いを見ていたら、そりゃ惚れる女性もいるだろう。
一方で男にはあまり告白をされないらしい。持ち前の男嫌いが祟っているのは言わずもだ。
「男嫌いを抜かしても、男は男装する僕っ子を敬遠する傾向にあるみたいなんだ。両親ですら好くは思っていない。君はどう?」
どうしてそんなことを聞くのか、俺には真意が見えない。
けれど聞かれたことには答えるべきだろう。
「考えたこともなかったですね。
カッコイイ女性とは思っていましたけど、好き嫌いかなんて考えたこともなかった。先輩は男装する自分を気にしているんっすか?」
「婚約者の気持ちは知っておきたいものだろ?」
「なら、大丈夫ですよ。御堂先輩はカッコイイ女性で通っていますから。俺の王子ですしね」
手首に通していたゴムで髪を縛る。
御堂先輩が大きく動いたせいで綺麗に結べなかった。
ジッとして下さいよ、愚痴ってゴムを解く。
再び櫛で髪を梳いていると、「これからも僕は」女性らしく振る舞えないと思うよ。意味深に彼女が吐露した。
俺は微笑を零して、
「女性らしくして欲しいと言った覚えはありませんよ?」
セクハラに対しては女性として控えて欲しいところはあるけれど、基本的な身なりや言動に対しては口にしたことはない。
それが御堂先輩のひとつの一面だと思っているから。
「俺は貴方を王子と見ても、男性だと見たことはありません。俺の中では常にカッコイイ女性なんですよ。その一面が俺は好きです。何度、女前な貴方に救われたか」
今度こそ綺麗に髪を縛ることができた。満足のいく出来栄えである。
終わったと彼女の両肩を叩く。
体ごと振り返ってくる王子に綻んで、「俺を女性だと見ますか?」逆に問うた。
それこそ初対面のあの夜は人を女性だのなんだのイチャモンつけてくれたけど、今は、きっと違う。
彼女は俺を一端の男と見てくれている。かち合う瞳で分かる。
「豊福は口説いている女の子達とは違う。君は僕の中で男だ。姫でも、やっぱり男なんだ」
「男の俺を嫌悪、しますか?」
「そうだね。性別を考えると、少し。時に女の子の方が可愛いと思うことすらある。女性に恋をしたことはない。でも出来ても驚かない自分がいるだろうな。
……だけどね、性別で君を区別することはもうできない」



