「空。勝手ばかりするあたしを怒っているか?」
「怒っていないように見えますか?」
「いや」激怒しているように見える、彼女が苦々しく笑った。
そのとおりだ。俺は怒っている。激怒まではいかないけれど、それなりに腹を立てている。
だけど、一方で……結局俺は鈴理先輩の我が儘には弱い男だ。遺憾なことに。
「先輩は馬鹿っすね。一人の男のために、自分の人生を棒にふろうとしているんっすよ。おとなしく大雅先輩と婚約しておけば、約束された将来の道が続いているのに。
俺なら、さっさと諦めてしまうところっすよ。執着するほどの価値もありませんし」
「あたしには価値がある。あんたにすら分からない、大きな価値がな」
「……俺、婚約者贔屓しますよ。貴方の応援はできません。俺は御堂先輩の婚約者。家族のこともあります。知ってのとおり、俺は家族至上主義っす」
こんな馬鹿げた宣戦布告、俺は嫌ですけど御堂先輩がどうしてもと言うので承諾します。
貴方の覚悟と気持ちも分かりましたしね。
三ヵ月、何が起きるか分かりませんが、何も変わらなかったらもう俺にアプローチするのはやめて下さい。
貴方の気持ちを受け取れるのはこの三ヶ月間だけ。
三ヶ月を踏ん切りにさせてもらいます。
「それでも良いっすか?」
「ああ、そうしてくれ。その方があたしも引き摺らずに済む」
厳しいことを言っているのに、彼女の声は清々しいまでに明るい。
きっとあどけなく笑っているのだろう。覚悟は生半可な物じゃないんだな。
だから俺はつい、余計なことを言ってしまうんだ。
「今の貴方の気持ち、受け取っておきますね」
今度こそ御堂先輩の後を追う。
野次馬の視線を無視して王子の隣に並ぶ。
「必ずっ」かならず迎えに行くから、追って来たであろう鈴理先輩が俺に向かって宣言してきた。
無理だと思った。
簡単に英也さん達が婚約を破談するとは思えないし、俺は俺で借金の件がある。
御堂先輩は俺の借金を気に掛けてくれているみたいだけど、現実はそんなに甘くない。
肉食お嬢様の決意は無謀だと思う。
なのに彼女に何か言いたくなるのは、俺の麻痺していた一感情が疼いたからだろう。
「体には気を付けて下さいね」
足を止めず、振り返らず、けれども相手に聞こえる声で俺の気持ちを伝える。
応援はできない。
何故なら俺は御堂先輩の婚約者だから。
俺の気持ちを伝えることも不可。
何故なら俺は御堂家のために生きろと言われているから。
彼女に待っていると返事することも無理。
何故なら俺はこの現状を打破することなんて不可能だと考えているから。
なら、相手自身の体を心配しよう。
彼女は無理すると食事すら抜いてしまいそうだから。
ちゃんと食事をして、睡眠をとって、元気よく健康的に過ごしてくれたら、俺はそれでいい。これ以上の幸せは望まない。
でもね、鈴理先輩。
本当は貴方に言いたかったっす。
ここまで想ってくれて本当にありがとう、と。



