前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―




「普通に考えても内輪の婚約式を終えている君達が、三ヶ月以内に破談できるとは思えない」


―――…それでも三ヶ月だ、鈴理。
 
君がそう期間を決めた以上、延長は許されない。婚約を白紙に費やす期間は今日から三ヶ月。
 
それまでに婚約をまっさらにして豊福を迎えに行くなり、奪いに来るなり、好きにするがいいさ。君の本気を僕に見せてみろ。

君だけ奔走するのはフェアじゃないから僕は僕で三ヶ月、正式な婚約式を挙げられるよう努力しよう。不本意ではなく、今度は本意だと言えるように。
 

だが一つ忘れるな、鈴理。
 
豊福は“例の件”で身動きが取れないということを。ご家族のこともある。軽率な行動は控えてもらうぞ。


「破談できたら僕と勝負させてあげるよ。豊福を賭けてね」

「あーあーあー。そんなこと言っちゃって。源二さんや一子さんに叱られても知らないっすからね。これでも契約を交わした関係なのに、もし負けたらどうするんっすか。お二人への言い訳は先輩が考えて下さいよ」
 

嫌味を飛ばしてもなんのその。

「僕が負ける人間に見えるかい?」自意識過剰な発言をして俺を見てきた。

「勝つことを願ってますよ」憮然と肩を竦めて返事する。

 
ふふっと笑声を零す御堂先輩は勝つのは僕だけね、とウィンクして鈴理先輩に宣戦布告をした。


「彼を“解放”するのは僕だよ。鈴理。君達が破談で奔走している間に決着をつけてやるさ。“解放”することができたら今度こそ、僕達は本当の関係になれる。
そう、手段は一つ。見つければいいのさ。不幸のどん底に貶めた“人間”の行方をね」

 
“解放”の意味を察しない俺じゃない。
 
彼女は豊福家が追った借金について述べているんだ。

確かに俺達に借金を押し付けた張本人を見つけ出すことができたなら、俺達家族は借金から解放される。

けれど、それは無理だと踏んでいた。
蒸発した人間を探すことがいかに難しいか、高校生の俺でも容易に見当がつく。
 
 
だけど御堂先輩は本気らしい。
 
俺が無理だと促しても聞く耳を持たず、「僕は優しいからね」手段も一緒に教えておいてあげる。勝負と並行して行動してもいいよ、と不敵に笑った。

同じ表情を作る鈴理先輩は破談と同時に勝負をつけてやってると意気込んでいた。


言葉が出なかった。
 
勝負の決着は婚約破談と俺の家の“借金問題”なのだと理解し、なんて反応すれば良いか分からない。

人の家庭事情を勝負事に持っていくんじゃないと怒ればいいのか、それとも。


「もし白紙にできても、“勝負”によってあんたに負ける可能性もあるだろう。その時はこれをあんたに譲ろう」


負けたらこのアルバムを玲にスペシャルなプレゼントする、と鈴理先輩。

「アルバム?」首を傾げる御堂先輩の余所で、「あれ見覚えがあっぞ」大雅先輩が遠目を作った。

なんのアルバムなのだろうか? 疑問に思っていた次の瞬間、ページが捲られ、俺は絶句せざるを得ない。

あ、あれは俺の写真じゃないか! しかも撮らせた覚えのない写真ばかりっ!


「これはあたしの大事なコレクションだ。学校生活は勿論、プライベートで盗った、おっと間違えた。プライベートで撮った空の写真がたんと詰まっている。
例えばこれは空が数学を受けている姿。こっちは学食堂でメシを食っている姿。これなんて空の執事服姿だ。我が家の召使服を好んで着たんだぞ」


好んで着た覚えはないんですけどね! あれを着た原因は竹光さんの勘違いっすよ!
 

「中でもこれはスペシャルでな」


鈴理先輩がアルバムから一枚の写真を取り出した。


それは体操着姿の俺。
写真写りからしてバスケをしている模様。

パスされたボールをジャンプして受け止める姿が一枚の紙に閉じ込められている……極最近の写真だな、あれ。

今、まさにバスケの授業をしているもん!
 

「す、鈴理。それはスペシャルじゃないか!」
 
 
と、ここで御堂先輩が声を上げた。
 
ただバスケをしている俺の姿の一体何処がスペシャ「腹チラじゃないか!」


……、……、……。


「その写真。ベストショットで豊福の腹チラを上手く捉えているッ…、なんてグッドでスペシャルな!」

「そう。チラリズムは非常に萌えだ。簡単には撮れないぞ、このショット! ヘソが見えるか見えないか、このラインが堪らないのだ!
他にも秘蔵の写真がいっぱいだ。負ければこれをあんたにプレゼントする。それほどあたしは本気だ!」

 
「美味し過ぎる」さすがは豊福と同校生、こんな美味しいイベントショットが撮れるなんて。あれは欲しい、絶対に欲しい。

御堂先輩が燃えた。
間違った方向に燃えていた。勿論俺は「……」である。
 

「じゃあ君が勝てば」


僕はこれをプレゼントしようか、とスマホを取り出すプリンセス。
 
画面をタッチすると、待ち受けにしている画像を筆頭に秘蔵の画像をやると画面を突きつけた。

先輩達と一緒に画面を覗き込む。
 
「ゲッ!」俺は声音を張った。画面の向こうにはやや浴衣が乱れた俺がっ、あぁああ、これは俺が足が痺れた時の! いつの間に撮ったんっすか!