「冷凍食品、一年分つけると言っても無理か? いや三年分は付けるぞ」
すっこしでも動きを止めた俺を殴り飛ばしたい。
今、俺はカッコつけて何を思った?
優先すべきことは御堂家財閥の将来だって思ったよな! ……三年分は実に美味しいけど。
「俺様からは三年間毎月、苺菓子をプレゼントしてやる」
も、物で釣ろうとするなんて卑怯な。
苺菓子……、不覚にもちょっとだけ魅力的だと思ったっす。
「じゃあ僕は毎晩キスをプレゼント」
いや、御堂先輩! どさくさにまぎれて何一緒にノッてるんっすか!
しかもそれ、俺のためじゃなくて自分のためっすよね!
現金ゆえについ天秤が傾きそうになったけれど、ブンブンと頭を振って誘惑をはね退ける。
アッブナイあぶない。
ここで誘惑に飛びついていたら男が廃れてしまう。
ま、迷ったのはギリセーフだよな!
「早く解いてくださいよ!」
自分の失態を流すべく、椅子の上で暴れる。
受けられない物は受けられないし、都合に合わせるほどお人よしでもないんだ。こうしていても時間が過ぎるだけだと主張する。
するとズンズンと大股で大雅先輩が歩んできた。
こっわい顔をして来るもんだから、もしやキレて殴りに来たのか? と身構えてしまう。
案の定、右手で胸倉を掴んできた。これはやられる。
「た、大雅。暴力は駄目だ!」
「チッ、暴力に運ぶなら僕もこの話はなかったことにするからな!」
二人の喝破する声と、
「何かあれば俺が責任を取る。だからあいつの、最後の我が儘を聞いてやってくれ」
大雅先輩の小さな声が重なった。
二人にはよく聞こえなかったみたいだ。
俺様は小声も小声で俺に自分の気持ちを伝えてくる。
今まであいつはとても落ち込んでいた。
自分の人生の価値すら見失っていたほど、財閥や両親に絶望していた。
その彼女がやっと立ち直りかけている。
我が儘だって分かっている。
都合にばかりつき合わせているのも理解している。
申し訳なくも思っている。
お前にだってご両親のこと、婚約のこと、将来のことがあるのも分かっている。
けれどこの機会を逃させたくはない。
「豊福、これっきりだ。俺達の都合で振り回すのはこれっきりにする。だから……、お願いだ」
そう言って手を放してきた。
まさか俺様からそういう頼まれ方するとは思わなかった。
今の調子じゃ、俺が土下座しろっつったらしてくるんじゃないか?
「無理ですよ」「ああ」「無茶っすよ」「分かってる」「勝手過ぎますよ」「悪い」「俺の気持ち分かるでしょう?」「それでも、だ」「許されないんっすよ」「ごめん」「でも引かないんですね」「頼む」「俺の立場すら考えてくれない」「何か遭ったら俺が責任取るから」
「……はぁあ。しつこい人っすね。取り敢えずこれ。解いて下さいよ」
静かに訴えると大雅先輩がネクタイの拘束を解いてくれた。
やっと自由になれたと手首を鳴らし、足首を軽く回す。
シャツのボタンを留めつつ、皆勝手だと俺は愚痴った。
あからさま声が不機嫌になっているのは感情が露になっているからだろう。
「結局、だあれも俺の都合を考えてくれない。なんだかんだで自分達の我が儘に付き合えと言ってくるばかり。なんっすかね、本当に」
非常に不愉快だと肩を竦めた後、「俺は御堂財閥のもの」如いては御堂先輩のもの、決定権は俺にないとぶっきら棒に伝えた。
御堂先輩が望んでいるのならば、此方は見守るのが最良の策。
今の俺は御堂家に尽くさないといけない立ち位置だ。
止めたいのは山々だけど、御堂家長女の意思を無視することはできない。
すべては御堂先輩の返事次第なんだ。
「どーぞ勝手にして下さい。俺は御堂先輩の意思に従いますんで」
二人を一瞥すると向こうの表情が和らいだ。
礼を言われたけれど、それには鼻を鳴らして受け流す。
俺の返答をある程度、見透かしていたのか御堂先輩が肩を竦め、「三ヶ月以内だ」君達の本気とやらを見せてくれ。と二人に告げる。



