前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―




「あたし達の婚約は不本意だった。同じようにあんた達の婚約も不本意だ。純粋な婚約じゃない。あんたはそれが嫌で堪らない筈だ。
特にあんたの祖父が決めた事なら。あんたはすこぶる祖父を嫌っているからな。向こうの言いなりになりたくはないだろう」


例の件で成立した不純な婚約ならあたしが付け入る隙はある。

……付け入る? いや返してもらうだけだ。あたしの所有物を。
 

なんたってあんたは人の所有物をスったのだからな!

確かにあたしはヘタレていたが、所有物を手放した気はさらさらない。

終わりにすると空と会話した気もするが、別れるとは言っていない。一言も言っていない。

スリは犯罪だぞ、玲。
 
泥棒猫など可愛い言葉は使わん。あんたはスリをして所有物を盗んだ!


「だから返してもらうのだ。あたしの所有物を」

 
……なんて、素晴らしい、あたし様の演説なんだ。
 
少し離れている間に、鈴理先輩のあたし様、レベルアップしたかも。言っていることがすっげぇ傲慢だ。


彼女の演説により、空気が一瞬にして氷点下までさがった。
 
引き攣り笑いを浮かべ、「可愛くない性格をしているね」君のような女性を口説く気にはなれないな、と片眉を微動させた。
 
「大体スリだって?」

それは聞き捨てならない単語だとこめかみに青筋を立てる王子に事実だとを舌を出し、鈴理先輩は腕を組んでつーんとそっぽ向く。
 
「あたしの物を盗ったではないか。犯罪だ!」

「聞き捨てならない。君から手放したんだろ? 僕は……、そうだな、例えるのならば落し物を拾っただけだ。素晴らしい落し物だったがな」


「ならば持ち主に返すのが筋だろ! まったく、良識のない女だな」


……鈴理先輩ってこんな人だっけ?
 
遠目でやり取りを見守っていた俺は、傲慢なあたし様にいつまでも三点リーダーを出していた。

ついでに俺って物扱いなんだ。

者扱いじゃなくて物扱い。

べつにいいんだけどね。今更な疑問だし。
 
 
「玲、あたし達の我が儘だということは分かっている。だ
が、どうしてもあたしは決着をつけたい。あんたや玲、大雅と空の決着を。自分自身のためにも決着をつけたいのだ。

三ヶ月内に破談できなかったら、あたしは婚約者の二階堂大雅を抱き、受け男にすると約束しよう!」
 
 
間。間。間。

「あ゛?!」悲鳴ひとつ。


「ちょ、待ちやがれ! なんでそこで俺を出しやがる! 受けっ、はぁあ?!」


これは打ち合わせに無かったらしい。
寝耳に水だと大雅先輩が間の抜けた顔を作っている。


「何を動揺している。当然の条件だろう?」

「待て待て待て。だからって俺が豊福みてぇになるのかよっ! それ、超絶俺様が可哀想じゃねえか!」


それ、どういう意味っすか! 俺に喧嘩売ってます?!


「あたしは攻め女だぞ? あんたは必然的に受け男になるだろう。大雅が言ったではないか。付き合ってやるって」


だったら最後まで付き合え。あんたとあたしは運命共同体だ。
 
当然の如く鈴理先輩がのたまうもんだから大雅先輩が引き攣り笑いを浮かべた。
 
「俺が抱く方だっつーの」どうにか反撃の糸口を見つけても、「阿呆だろ」あんたみたいな男があたしを抱けると思っているのか? 図体だけはでかいがな。


と、まあまあ、あたし様は一歩も引く様子がない。


寧ろもしも駄目だったら立派な受け男として教育してやるから安心しろ、と不要な励ましを送っていた。


「こいつとだけは結婚できねぇ」


結ばれた日には何されるやら、某俺様は悲壮感を漂わせている。
 
いや、鈴理先輩は悪い人じゃないと思うっすよ大雅先輩。

受け身だって慣れてしまえば、まあ、なんてことない(わけでもないけど)。

 
「玲。あたしは覚悟を決めてあんたを呼び出したんだ。それこそ、この三ヶ月で勝負を決めてしまうつもりだ。あたしはまだ空が好きだ。が、自分の不甲斐なさゆえにこんな事態を招いてしまった。

あたしと空の間に生じた亀裂はあたし自身にある。
それは空にも申し訳なく思っている。身分のことを気にしていた空の不安に気付いてやれなかった」


だが簡単に諦められるほど、あたしの気持ちも安くない。
 
だからプライドを賭けて宣戦布告をさせてもらう。

必ず三ヶ月内に婚約を白紙にし、あんたと勝負をして空を迎えに行くと。


それまであんたは正式に婚約を結ぶのもよし。空を落とすのもよし。キスは勿論、セックスも、あー……、し、仕方がないから許してやろう。婚約しているのだ。


それくらい当然だろうし、何をするのもあんたの自由だ。

不覚ながらあんたは空を支えてくれたようだからな。


しかし、セックスしようが何をしようが簡単には終わらないぞ。玲。
 
それだけ本気だとあんたにぶつけておく。

この宣言に反し、三ヶ月以内に破談できなかったら、もしくは空が完全に玲に落ちたのならば、あたしはこの身を引こう。
 
以降は一友人としてあんた達を祝福し、応援していく立場でいるつもりだ。