「既に大雅は承知している。元々望んだ婚約ではなく、親が勝手に決めた関係だ。あたし達では上手くいかないと話し合った。かと言って二財閥を見定めるわけではない。結婚とは別のやり方で繋がりというパイプを強化するつもりだ」
それを指し示すために、あたし達は親を説得しようと思う。行動というあり方でな。
もっと早くからこうしておくべきだった。おかげさまで散々な目に遭った。
あたしがヘタレていたのも一理、原因に挙げられるだろう。
正直に言おう。
あたしは家族評価に恐れをなしていたんだ。
抱いていた劣等感ゆえ両親との対峙に慄き、なるべく避けていこうとしていた。強く行動に出られなかったんだ。それが仇になった。
しかしこれからはあたしらしく行くぞ。親
から決められた人生など真っ平ごめんだ。それは大雅と常々話していたことだ。
ここ最近、親の強引さが際立って成されるがままになっていたが、もうやめだ。そんなヘタレな態度。
「今日から三ヶ月内に必ずあたし達は婚約を白紙してくる。そして」
視線が俺に流された。
心臓を鷲掴みにされたような錯覚に陥る。気のせいであって欲しかったけれど、あたし様は容赦がなかった。
「正式にあたしと勝負をしろ。空を賭けて。これはあたしからの宣戦布告だ、玲」
脱力と眩暈が俺を襲った。足元の感覚が無くなる。
鈴理先輩は何を言っているのだろう。
彼女が日本語を言っているのは分かるけど内容がちっとも頭に入ってこない。
婚約を白紙? 俺を賭ける? 宣戦布告? 何言っているんだ。この人は。
感情任せの発言だとしても、これは軽率過ぎる。
それまで静聴者だった御堂先輩は、「へぇ」面白い提案をしてくるんだね、と笑みを深めた。
「あれほど大人しかった君が見違えるほどだ。敬意を表したい、が、受け入れられない申し出だね。君達が破談しようがなにをしようが此方は構わない。
けれど僕達の婚約は完全に成立している。固い条件の基でね」
君達の都合で婚約が左右するほど、甘い関係じゃないんだよ。鈴理。
「もう充分に分かっているだろう?」
財閥の都合は庶民出の彼には負担なんだよ。
二度も、三度も、同じ苦痛を味わわせるつもりかい?
眉根を寄せた御堂先輩の手厳しい発言に、「そりゃそうだが」けどよ、大雅先輩が会話に割り込んでくる。
けども何もない。
有無言わせず、冷たく突き放す御堂先輩は小さな吐息をついて肩を竦めた。
「僕達の我が儘だけで物事が通るほど現状は甘くないんだよ。君達はその状況を目の当たりにしているだろ? 彼には背負うものがあるんだ。
僕だって財閥の世継ぎ問題が残っている。申し出は受け入れられない。さあ、豊福を返してもらおうか」
「ちょ、待てよ玲。お前、あの時は鈴理と勝負してみてぇって言ってたじゃねえか」
聞く耳を持たない御堂先輩に焦ったのか、大雅先輩が一歩前に出る。
それを制したのは鈴理先輩だった。
片腕を挙げて制す彼女は、「安心したぞ」すっかり空の王子じゃないか。誰よりも守るべき奴の気持ちを優先する。あたしがあんたの立場ならそうしていると綻んだ。
意味深に笑みを返す御堂先輩は当然だと返す。
伊達に王子宣言したわけじゃないからね、軽い嫌味を飛ばすけれど纏う茨は少ない。
そんな彼女に笑みを返し、鈴理先輩は話を切り出した。



