それは放課後のこと。
帰りのSHRが終わり、身支度をしていると前触れもなしに勢いよく前方の扉が開かれた。
同時に聞こえてくる大音声は俺を名指しする声。
つい昔にもこんな場面があったようなかったような……、じゃなくって! なんで鈴理先輩が俺のクラスに来て俺を名指ししているんっすか!
度肝を抜いてしまい、つい俺は持っていたペンケースを机上に落としてしまう。
「むっ。返事がない。このあたしが呼んでいるというのに、返事がないとはどういうことだ」
高飛車口調は相変わらずである。
「いるではないか!」俺の姿を見つけると、鈴理先輩がずんずんとこっちに歩んできた。
足を止めると仁王立ち。腕組みをして俺を凝視してくる。
「そーら。あたしが呼んでいるというのに、何故返事をしない?」
「え、あ、す、すみませんっす。突然のことで……、ど、どうしたんっすか?」
何か御用でもあるんでしょうか。
小声で尋ねると、
「御用がないと来てはいけないのか?」
ということはなんだ? 御用を作らなければあんたに会いに来てはならないと? あたしに向かってよくもそんな生意気な口を叩いたな! ビシッと彼女が指差してくる。
えぇえっ、普通そう思うでしょ。
特に今の俺達の関係は先輩後輩関係で成り立っているんっすから、御用があるって思うのが普通でしょ! なんで怒られているんっすか俺!
クラスメートの視線が集まる中、「まあ良い」御用を作らなければならないのならば御用を作ってやらんでもない、鈴理先輩が不敵に笑った。
「御用はひとつ。空、あんたを襲いにきた。性的な意味で」
雄々しすぎる御用に唖然の絶句。大混乱。
え、何言ってるのこの人。
性的な意味で襲いに来た? 性的な意味で襲いに来たぁ?
「ば。馬鹿言わないで下さいよ」
貴方には婚約者がいるでしょう。俺にだって婚約者がいるのに。
相手にそう言っても、「だから?」である。どゆこと?! それじゃあ理由にならないってか! そんな馬鹿な!
「鈴理先輩! 浮気は駄目っすよ!」
椅子を引いて大主張すると、「安心しろ」浮気は一人じゃ成立しないのだぞ、彼女が勢いよく親指を立ててきた。
「つまりあたしとあんたは共犯なのだ。同じ罪を被る。む、アダルトな世界だと思わないか?」
「勝手に共犯者にしないで下さいよ! 俺には御堂先輩がいるんっすから! 大雅先輩にも申し訳が立たないっす!」
「なにより、だ。空はあたしじゃないと満足できない体なのだ! あんたが拒もうと体は既にあたしの虜。
例えば空の性感帯は耳だが、付け根や裏も感じやすい。左より右の方が感じやすいのだ。また首から鎖骨「もうやめて下さいぃいいい! 耳が痛いっ、俺の存在も痛いっす!」
まさかこんなところで性感帯を暴露されるなんて思いもしなかった!
明日からもう学校に来れない。不登校決定だ。
真っ赤っかになって机上に撃沈する俺に勝ち誇ったような笑みを浮かべる鈴理先輩は、「欲求不満のようだな?」とけしからんことを述べてきた。
冗談じゃない。
俺は浮気は断固反対派っすよ。
すると鈴理先輩が、「ではあたしと付き合っていた頃に」玲が仕掛けた行為はしても良いのだな? と意味深に視線を向けてくる。
「浮気は互いの気持ちが一致してこそ、だしな。ならば一方的に攻める行為は許されるよな?」
「えっ、ちょッ! 先輩!」
椅子から引き倒された俺は床に頭をごっつんこ。
可愛く表現しているけれど、無茶苦茶痛いのは補足として付け足して欲しい。
「アイテテ」背中も強打してしまい、身悶えていると腹部に重みを感じた。
ハッと気が付いておずおず視線を上げれば、ニンマリ笑っている悪魔が! じゃね、あたし様が俺のネクタイを解いてビシッと両手で張った。
「ほぉ? キスマークが凄いな。ふっ、玲め。あたしに対するアテつけか? 良かろう。その挑戦、受けて立つ!」
ぐぎぎっ、と笑顔を深める鈴理先輩の禍々しいオーラに千行の汗を流した。
乱心している。
鈴理先輩が乱心しているよ。怖いよ!
「いい声で鳴けよ」手を縛ってこようとするあたし様に全力で抵抗して、「駄目っす!」俺は貴方とはシませんっ! 浮気はしません! スチューデントセックスは反対している男ですから!
「目を覚まして下さい先輩ぃいいい!」
俺の叫びに、
「覚ました結果なのだよ」
と鈴理先輩はにやっと笑う。
「む、視線が多いな。こら、あんた等は空気を読んで教室から出ないか!」
勝手に人の教室に乗り込んできたくせに、そこにいた連中に退却命令を下す。さすがあたし様である。
鈴理先輩の気迫に負けたクラスメートがトンズラする中、「どうしよう」「どうするって言われてもよ」フライト兄弟は果敢にも残って俺を助けようかどうか考えてくれている。考える前に助けて欲しいんだけど!
「ウゲッ!」
一瞬の隙を突かれて手首を一括りにされた。
硬結びされているらしく、解こうにもなかなか解けない。
「暴れている空を縛ることなど容易い。空のことで不可能など、あたしにはないのだ!」
「何、満足した顔で人を縛ってくれているんっすか! ほんっと、こういうのは不味いんですよ。俺の立場的にもッ……、どこ触ってるんっすか!」
「脇だが?」
「いや首を傾げるところじゃなくってっ、シャツに手を突っ込まないで下さいっ!」



