そりゃそうなんだけど改めて他人に言われるとハズイじゃないか。先輩はそうじゃないのだろうか?
相手を一瞥すると、嬉しそうに笑う彼女がそこにはいた。
本当に幸せそうなもんだから、俺はまた頬を染める。
先輩が幸せそうに笑うなら、羞恥なんてどうでもいッ、……腹部に邪悪な気を感じる。
「僕は男の子と女の子、両方欲しい。頑張ろうな、豊福」
お触りお触り、人の腹部を撫でてくる御堂先輩に俺は片眉をつり上げた。
ぼんっと赤くなっているさと子ちゃんの前で堂々と逆セクハラをしてくれている婚約者を見据え、「俺は孕みません」男ですから、としっかり釘を刺す。
「けれど僕の彼女だろ?」
孕めるかもしれないとケッタイなことを仰ってきた。
「立場上はそうっすけど」
生物学上は覆すことのできない男だと主張する。
俺達の会話が不可解に思ったのか、さと子ちゃんが積極的に質問をしてきた。
「お二人ってどういうお付き合いをしているのですか? まるっきりカレカノが逆転しているような」
「周りとはちょっと違うぞ」よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに御堂先輩の目が輝いた。
「と言いますと?」同じ目の輝きを持つさと子ちゃんが彼女に質問を重ねた。
か、完全に女子トークのスイッチ入ったよこれ!
「僕は王子で豊福は姫なんだ。立ち位置的に言えば、僕が男ポジションで、豊福が女ポジション。立場が逆転している。そう、例えばさと子が豊福の立ち位置なら」
調理台側に座っていたさと子ちゃんに迫って、どーんと縁に手をつく。
迫られてあわあわと慌てふためく彼女に、「こういうやり取りをしているんだ」とさと子さんの顎を掬ってにっこり微笑む某プリンセス。その破壊力はさと子ちゃんをマインドクラッシュするほどだ。
傍観していた俺も顔を赤くしてしまった。
やっべ、なんか様になっているよ。あの図。
いかんいかん、女性同士なのにあの図。宇津木ワールドの逆を妄想した俺乙!
しゅーっと頭から湯気を出しているさと子ちゃんは解放されるや否やは両頬を包んで、「なんて激しいんでしょう」二人の関係はとてもお熱いんですね、と何やら納得した様子。
「し、しかも立場が逆転。禁断の扉を開けた気分です」
「そんなに疚しい関係じゃないよ! ちょ、ちょっと俺が押されているだけで!」
聞いちゃない。
彼女は顔を赤らめながら、全力で俺達の応援をすると言ってくれた。
嬉しいんだけど、ゼンッゼン嬉しさがこみ上げないのは何故だろう?
すっかり元気になったさと子ちゃんがもっと聞かせて欲しいと、根掘り葉掘り恋愛模様を聞いてこようとする。
「そうだね」それじゃあ豊福の魅力についてでも語るか、誇らしげな顔を作る御堂先輩を全力で止めたのは言うまでもない。
厨房でひと時を過ごした後、彼女は御堂先輩の部屋にお邪魔して俺達とメアドを交換。
自分の部屋に戻る時も彼女は俺達とまた話して欲しいと一笑してきた。
口調は敬語のままだけど、俺達の関係は彼女の中で友人と固定されたようだ。
御堂先輩もそれも望んでいたし、これで少しはさと子ちゃんも肩の力を抜いて仕事ができるんじゃないかな。
心置けない人間がひとりでもいると気が楽だろうから。
博紀さんに呆れられた痛みも緩和できたらいいな。



