そうだ。これからだ。

自分の人生は自分で切り開く。
好いた彼のように死に物狂いで努力してみよう。今の環境を変えてみよう。

例え恋が実らずとも、努力をするしないでは気持ちの決着に明確な差が生まれるだろう。


その時こそ婚約した二人を祝福してやれる。

 
ぺたんぺたんと足音を鳴らし、回廊を走る鈴理は途中で教育係のお松に出くわす。素足で走る鈴理に大層驚くお松、笑って相手に抱きついた。


「ばあや。随分心配を掛けた。あたしはもう大丈夫だ。自分らしく、もう一度頑張ってみようと思う」
 
 
主語がなくとも話の意図が伝わったのだろう。

お松は皺の入った目尻を下げ、

「本当にお転婆な方ですね」

そんなお嬢様がばあやは好きでございますよ。嬉しい言葉を掛けてくれる。


「あたしの我が儘を許すばあやのことも好きだぞ」


少しばかり口うるさいがな、ウィンクして彼女から離れると今度こそ自室に駆けた。
  

さあ、待つことはもうやめて、今度は迎えに行こう。

だって自分は彼の王子なのだから。
もう一度、受け男として姫になってもらうために走らなければ―――…。
 
 


 
ところかわってダイニングルーム。
 
奇想天外、おとなしかった鈴理が一変して素を曝け出した事態に真衣は大笑いしていた。
 
纏っていた不機嫌は何処へやら。
思い出しては笑声を漏らし、目尻に涙を浮かべた。困惑している両親すらも笑いのツボである。

「鈴理さんらしいですわ。やはり、あの子はあれくらい元気でなくては」

空気が緩和されたことに瑠璃は嬉しいのだろう。話に加担した。
 

「いいよねぇ鈴ちゃん、あんなに燃える恋をしているなんて。瑠璃もしてみたいよ」

「ああなれば最後、鈴理は自分の納得のいく道を見出すまで止まらないわ。お父さま、お母さま、これから大変ですよ」
 

 
だって、逆境こそ恋は燃えるものですから。



⇒07