「先の視えた末路なのに、馬鹿みてぇに義姉予定の女を思う男。その存在は兄貴にも、百合子にも邪魔の他なんでもねぇ。あいつ等は少なからず相思相愛なんだからよ」
「……奪えば良いではないか」
「できるわけねぇだろう? 俺は兄貴にも百合子にも幸せになって欲しいんだから。自分で決めたんだよ、俺は兄貴から百合子を奪うより、兄貴と百合子を見守ってやるべきだって」
兄貴は百合子と俺をいつも守った。
ヘラヘラしてっけど兄貴がマジになると俺でも怖ぇって思うくれぇ、やってくれる男だ。兄貴の実力を認めているし、百合子も少しならず兄貴に気持ちを寄せている。
じゃあ俺に出来ることはなんだ? 関係を壊すこと?
んなこと俺は望んじゃねぇ。
守ってくれる兄貴の背中を見て、俺はこいつと百合子を見守りてぇって思った。
しょーがねぇから貧乏くじ引いたってことで、二人を支える役回りに立ったんだ。自分で決めてな。
そりゃ嫉妬しねぇって言ったら嘘になる。けど自分で決めたから虚しさはねぇよ。自分で決めたんだから。
じゃあ、お前は?
「鈴理、テメェの諦められない気持ちは執着じゃねえ。自分で決めて物事を終わらせていない不満が、そうさせているんだ。テメェは不満なんだよ。親が敷いたレールの上を歩んでいることに。そりゃそうだよな。望んでもいないのに豊福と別れさせられたり、俺と婚約しちまったり」
それでもな。
テメェがどんなに嫌がっても俺はいつかお前を抱くし、お前は俺に抱かれる。
逆もあるかもしれねぇがそれ置いといて、つまりそういう運命だ。婚約した以上はな。
財閥は世継ぎと繋がりを重視している。俺の両親もお前の両親も例外じゃねえ。
俺達は夫婦になる、いずれ。
正直、俺は気が引けるぜ。
はっきり言ってお前のことは女として見るより、家族として見ている方が気持ちが強い。家族同然のお前を抱く気にはさらさらなれねぇんだよ。
でもお前のことは大事だ。お前が傷付くことがあれば、俺は容赦なく相手に食って掛かると思う。
てめぇみたいな女に対してそう思う俺がいるんだぜ? 頭がどうかしちまったんじゃね? とか思うけど、それを認めざるを得ない手前がいるわけだ。
もし、お前が俺の婚約者になることで幸せになれるんだったら、この運命を俺は受け入れるつもりだ。“本当に幸せになれるんだったら”な。
「けどきっと、俺達は夫婦になっても上手くいかねぇと思っている。どっちかってっと悪友のままの方が上手くいく、きっとな」
「大雅……、あんた。何が言いたい?」
回りくどいぞ。
鈴理にずばり指摘され、大雅は静かに答えた。
「お前のやりてぇことにとことん付き合ってやる。そう言ってんだよ。婚約、解消してぇんだろ?」
静寂。沈黙。無音。
室内に音が掻き消えた。
瞠目して体ごとこっちを向いてくる婚約者にしたり顔を作ってやる。
「できるわけ」頭から否定しようとする彼女に、「やってもしねぇで分かるのか?」そりゃ一人じゃ無理だ。大雅は素っ気無く返した。



