前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「いつだって空は環境に屈せず、努力で解決しようとした。今回だって随分辛い思いをしただろうに、努力すると言っていた。そこが好きなんだと思う」

「なるほどねぇ。俺にはただの平凡苦労男にしか見えねぇけどな。でも、あいつのテメェを想う気持ちは高く評価しているぜ。あいつもわりとお前にゾッコンだったしな。けどよ、結局向こうは婚約しちまった。俺達と同じように家庭事情を背負って」


もう、お前の気持ちに応えられないところまで落ちちまったんだよ。
 
あいつは根が優しいから、お前のことを気遣って今の今まで婚約の真相を告げなかったみてぇだしな。気揉みさせるより、恨まれた方が後腐れねぇと思ったんだよ。

豊福も言っていただろ? これからは御堂家にすべてを捧げるって。あいつにはあいつの人生がある。家族のため、自分のため、未来のために御堂家に仕えていくしかねぇんだよ。
 
この際、ハッキリ言うぞ。
鈴理。豊福のことは諦めろ。

あいつに深入りするだけ、お前が傷付くだけだ。豊福もそれを望んじゃない。


なにより、あいつはもうお前のものじゃない。玲のものだ。
 
 
男にはすこぶる厳しいあいつだが、豊福には心を許せている。

あいつも豊福がガチで好きになっちまったんだよ。
見ただろ? あいつの傍にいる姿を。男嫌いのくせに優しそうな面していたじゃねえか。

玲なら豊福を大事にするだろう。
 
その内、豊福もあいつの良さに惹かれて恋に落ちるだろうさ。


そういうことに関しちゃ玲は巧みだからな。
豊福の幸せを考えるなら身を引くべきじゃないか?


「なあ鈴理。悪いことは言わねぇ。豊福のことは忘れちまえ。ああいう男、他にもいるって」


大雅が努めて優しく言うと、「そんなこと分かっている」できたら苦労はしない! と突っぱねてきた。

何もかも分かっているのだと鈴理は喝破する。
これ以上、部外者の自分が深入りするべきではないことくらい、玲に彼を託したほうがいいくらい、分かっているのだ。


けれど諦められないから苦しいのだ。

似たような男がいてもそれは豊福空ではない。自分が好きになった男は彼だけなのだ。


「執着と言ったらそうかもしれん。だが、諦めようとする度に思い出が溢れ返るのだ。キスした日々も、当たり前のように傍にいた日々も、守り守られていた日々も。誘拐された日の時すらも」
 
 
短期間ではあれど、濃い時間を過ごしてきた。
 
諦めすら一蹴してしまうあの日々。
簡単に忘れられる筈もない。
こればっかりは現実として受け止められないのだと彼女は声を荒げる。


どうやら逆鱗に触れてしまったようで、もう話したくない。帰れと椅子の上で胡坐を掻き、彼女から背を向けられてしまう。
 
 
ある程度、予想していた態度に肩を竦め、「あたし様も形無しだな」すっかり男に骨を抜かれちまって。俺の知る鈴理じゃねえや、と皮肉を零す。
 
反応を示さない鈴理に構わず、「俺さ。百合子が好きなんだわ」前触れも無い身の上話を出した。

やはり反応しない幼馴染に、「時々無性に消えたくなる」なんで兄貴の許婚を好きになっちまったんだろうな。俺、邪魔だわ、そう微苦笑を零し、気持ちを吐露する。

すると鈴理が微かに反応した。こちらをチラ見してくる。