大雅は小説に感化されやすい幼馴染をぎこちなく見やった。
楽しげに語る鈴理は「これからどうなるか気になってな」読むなら、URLを送るぞ? と携帯を手にとって自分に差し出した。
「あたし的には女が男を監禁するヤンデレ小説が読みたかったのだが、これもなかなか「鈴理、早まるんじゃねぇっ! 人生もっと楽しまないと損だぞ!」
「何を焦っている?」眉根を寄せる鈴理に、「感化されやすいだろうが!」頼むからそれだけはよせ。三財閥跨ってお家騒動になるぞ! と、声音を張った。
阿呆かと鈴理が一蹴してきたのは直後のことだ。
心配せずとも現実と小説の世界くらい弁えているわ。
唸る彼女は、「あたしは手錠ではなく」首輪で相手を束縛したい派だしな、と余計な情報を寄こしてくる。
本当に世界を弁えてくれているのだろうか? なにせ自分の婚約者は恋愛小説の俺様や鬼畜、ドS等などに憧れる攻め女なのだ。油断はならない。
変に汗を掻いてしまったため、大雅は紙パックに手を伸ばしてイチゴミルクオレで喉を潤す。
「なあ大雅」
ふと声を掛けられ、声の主に視線を流す。
「腹が減った」意味深に物申してくるため、黒糖饅頭を食えばいいじゃないかと促した。
「食っていいのか?」再三再四、聞いてくる鈴理に疑念を抱きながら肯定。
すると遠慮なく頂くと大雅の腕を取るとそのまま噛もうとした。
紙一重に避けた大雅は何をするのだと冷汗を流す。
「何って、今、あんたが食っても良いと言ったではないか。あたしは攻め不足により空腹だ。だから有難くあんたの腕を噛もうと」
「そっちの空腹かよ! 俺を噛んでどうするんだよ」
「噛んだ後、隙を突いて押し倒し「もういい。聞いた俺が馬鹿だった」
額に手を当てて吐息をつく大雅に、もう飢えて飢えて飢えて仕方がないのだと鈴理は嘆く。
肉食にも程があるだろう。これでは本当に肉を求めている肉食獣である。
今までは後輩の体で飢えを凌いでいたようだが、今は解消できる人物がいない。
つくづく面倒な婚約者だと大雅も嘆きたくなった。
ガルルッ。
唸り声が聞こえてきそうな彼女が自分の婚約者だと思うと気が重い。
「欲求不満なら抱いてやろうか? 仕方がないから抱いてやってもいいぜ。どうせいずれは夫婦になるんだし」
オブラートもへったくれもない台詞を吐くと、「あたしが抱くのだ」リード権はあたしにあると鈴理がきっぱり言い切った。
それは困った。
自分だってリード権を持ちたい一端の男なのだから。
「俺は無理だぞ」
「あんたは夫になる男だろ? 空だって受け男になれたのだ。大雅だってできる」
ポリポリと頬を掻き、空元気を振舞っている鈴理を一瞥した大雅は「なんでさ豊福のこと」そんなにも好きになったんだ? と話題を切り出した。
触れられたくない話題なのだろう。
かたく口を結んでしまった。飽きもせずに視線を相手に留めると、観念したようにあたしにだって分からないと返事した。
最初は小生意気で嫌いだと思っていたのに、気付けば目で追っていた。毎日のように目で追っていた。
図書館で勉強をしている姿が、努力している姿が何よりカッコ良かったのだと鈴理は吐露する。
「努力して環境を変えようとしていた、あの姿」
そこに惹かれたのかもしれない。
自分にはない直向さを持っている彼に、きっと惹かれたのだ。
語り部に立つ鈴理は、そっと包装を開いて饅頭にかぶりついた。



