「完璧にばれてるじゃねえかよ! 変装はどうした変装は!」
「サングラスを掛けていったんだぞ?」某お昼番組で活躍しているタモリはサングラスがあるなしで人相が分からなくなるらしいから、同じ原理でサングラスを掛けていったというのに。
しかもタモリとお揃の真っ黒なサングラスを掛けていったと鈴理はキリッと顔を引き締めた。
「それ、変装どころか目立つだろが」
さぞかし空も驚いたことだろう。
大雅は当時の状況が容易に想像できた。
「売り上げ貢献のために飲食フロアにも行った。空はやはり緊張していたようで、一つ一つに戸惑っていた。初々しいな」
「いや気付け。そりゃテメェに戸惑っていたんだ。グラサンを掛けて現れたテメェに戸惑っていたんだよ」
深い溜息をつく大雅に対し、「空は玲の婚約者だというのに」土日はバイトに勤しんでいるそうだ。鈴理は神妙な顔で黒糖饅頭に手を伸ばした。
それこそ平日の空いた時間もバイトに入ることがあるらしい。
こっそり店主から聞いたのだと鈴理は、饅頭を半分に割って片方を口に入れた。
「空。実家の生活費を稼ぐためにバイトを継続しているようなのだ。借金のことは婚約で解消されたらしいが、生活は変わらないまま。元々生活が苦しくなったためにバイトを始めたそうだぞ。空はとても両親思いだからな。自分の時間を削って働いているんだろう」
「苦学生ってヤツだよな、あいつ。学校ではそういう風に見えないけど。……それで? テメェはバイト姿を見てどう思ったんだ?」
諦めでもついたか?
意地の悪い質問を飛ばすと、「腹立たしいと思った」予想外な質問が返ってきた。
動きを止める大概に対し、「とても腹立たしかった」バイトに勤しんでいる姿を見て、本当に腹が立った。
バイト、借金、婚約、それらを背負っていることすら気付けなかった自分に、そして気付かせなかった彼に腹立たしかった。
いやそれ以上に好敵手は彼の苦を知り、側にいて支えていた。気付かなかった自分と、気付けた好敵手の差に愕然とした。
ただただ嫉視したのだと鈴理は言う。
辛い時に側にいてやれなかった。前回も、今回も、それが悔しい。
「おかげで憂さ晴らしのように、ケータイサイトでヤンデレ小説ばかり漁るようになった。まったく、あたしも執念深い女だ」
確かに。端々で犯罪まがいなことはしている。
「や、んでれ? なんだそれ。ヤンキーがデレているのか?」
恋愛小説に疎い大雅だが、ツンデレはツーンのデレ。クーデレはクールのデレだと知識にはある。そのためヤンデレはヤンキーのデレだと思っていた。
しかし鈴理の答えを聞いて硬直してしまう。
「病んでいるほど相手のことを好きになってしまう。それをヤンデレと人は呼ぶ。ふっ、人の愛とは深いものよ。今、あたしが読んでいる小説は相手のことを病的に求め、束縛し、ついには監禁」
大雅は想像してしまった。
鈴理が後輩を山奥の別荘に誘拐し束縛、ついには監禁生活をしてしまう光景を。
「最初こそ監禁された彼女は相手に恐怖を覚えていたのだが、その内、好意を受け入れてしまうのだ。手錠を嵌められているのにも関わらず、それすら愛情を感じてしまうという」
更に想像してしまう。
ベッドの柵と手錠で繋がれた後輩が、それを愛情だと思うようになる姿を。
そしてそれを愛情だと口にする鈴理を。
……大変である、鈴理も後輩も精神が病んでいる! それが愛情? いや異常である!



