前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「欲情しても相手はしてやらんぞ」

 
そう言って自室に戻って行く。
 
「テメェを抱く気になんねぇよ」取り敢えずシャツは着ろ。と指摘。

今から着るところだとクローゼットに向かう鈴理は部屋に入ったら座っとけと言い放ってきた。

当然そのつもりだと大雅は返事して部屋に入ったのだが、すぐに足を止めてしまう。


「うっわ、なんだよこの部屋。きたねぇ! 何処もかしこも本だらけじゃねえか!」


床もベッドも机上も本、本、本。

足の踏み場も危ぶまれそうなのではないかと疑念を抱くほど、鈴理の部屋は本で散らかっていた。

この中で生活していたのかよ、あきれ果てる大雅は本の一冊に手を伸ばしてタイトルを確認する。

偶然にもケータイ小説文庫を取ってしまったため、大雅の目に『わぁお王子と素敵な甘い時間』というタイトルが飛び込んできた。
 
「せ。センスねぇ」

もっと良いタイトルは無かったのかと大雅は頬を引き攣らせる。


「ん? こっちはアルバムか? 誰の」

 
手に取った赤い水玉表紙のアルバムを開くと束になった写真が絨毯に落ちた。

視線を下に向けると、そこには元カレの写真。写真。また写真。

逃げる姿から弁当を食べる姿。勉強する姿に居眠りしている姿。自宅であろう部屋で着替えをしている姿。

キスマークにエロイと記入されている写真も……、はてさてどこから隠し撮ったのだろうか? 元カレが見たら喪心してしまいそうな写真の数々に大雅は静かに目を閉じた。


(俺が旦那になっちまったら、隠し撮りとかされるんじゃねえか? 末恐ろしい)


なにせ、キャツは攻め女。

腐っても男ポジションに憧れる女のである。
必然的に、夫になるであろう自分は受け男を強いられるに違いない。
 
暗い未来に身震いし、何も見なかったことにしようと散らばった写真の上にアルバムを戻した。


こうして寄り道をしつつ、本を踏まないよう気を付けながらソファーに向かう。

此方は比較的に本の被害を受けていなかったため、安心して腰を下ろせた。

改めて部屋を見渡すのだが、本当に本だらけである。
ハードカバー、ソフトカバー、文庫問わず、本が散乱している(アルバムがあるがあれには触れないでおこう)。気を紛らわせるために本を読んでいたのだろうが、少しは片づけにも目を向けるべきである。

 
そのためトレイを持って部屋を訪れた晶子も部屋の惨状には度肝を抜いていた。

テーブルに和菓子と飲み物を並べて退室していく晶子を見やった後、大雅は和菓子に目を向ける。
 

“いづ屋”と記された黒糖饅頭の包装紙。
 
確か元カレの勤めているバイト先の名だ。

黒糖饅頭の隣に置かれた紙パックに目を向けると、『イチゴミルクオレ』と表記された飲み物が自分を訝しげに見ている。

まるで黒糖饅頭と俺を一緒に飲むのか? あん? と詰問されている気分である。


「饅頭にイチゴミルクオレ。最悪の組み合わせだな」


率直な感想を述べると、「文句があるなら食うな」ぶすくれる未来の奥様が鼻を鳴らした。


「あのよ。一応聞くけど、この饅頭、豊福のところで買ってきたのか?」


あっさり肯定した鈴理は自分で買いに行ったのだと教えてくれる。


「お母さまのこともあったし、元気にバイトをしているのか気になってな。なにより働く空が見たくてな」


わざわざ変装して行ったのだと鈴理は得意げな顔をする。

自分で丸椅子を持ってそこに座る婚約者を流し目にした大雅は、「変装ねぇ」よくやるぜ、と苦笑した。


「で? どうだったんだ?」

「うむ。たまたま販売エリアにいたから、そこで菓子を買った」


元気は元気だったぞ。笑顔で挨拶をしてくれた。

しかしまだまだ接客には慣れていないようで、あたしがショーケースに立つと体を強張らせたんだ。

緊張していたらしい。

また『菓子を全種類。此処ある数の三分の二ずつ包んで欲しい』と言ったら、ひどく狼狽していた。

そして言われたのだ。


『賞味期限はどれも三日以内ですよ。ちゃんと食べられますか、鈴理先輩?!』


と。