けれど謝罪はできずに流れてしまった。
彼と会話した際、『本当に知られたくなかったんっすよね』俺の家に借金があることを、と話題を切り出された。
同情されたくなかったのか? 大雅が問い掛けると、『それもありますけど』一番は相手を悲しませたくなかった。空は泣き笑いし、言葉を続けた。
『俺の家に借金があると知れば、鈴理先輩、余計な心配をするでしょう? ただでさえ家庭問題で大変なのに。なら、簡単に心変わりした俺を恨んでくれた方がマシだと思いました』
『豊福……、けどよ』
『恨んでくれることで前に進めるじゃないっすか。鈴理先輩は未だに俺のことを好きでいてくれる。メリットも何もない男を、一途に想っているんっすよ? 見ていられないっすよ。あの人の悲しむ顔』
もうあの人の気持ちには応えられない。応えたくても、応えられない。
『それに大丈夫っすよ』
俺がいなくても、大雅先輩が傍にいるのだから。
あの人のことを本当の意味で理解しているのは先輩、貴方です。俺じゃない。
貴方が傍にいてくれたら、きっとあの人は大丈夫。
今は立ち直れないかもしれない。
でもあの人はわが道を進むあたし様。強い人。
俺を踏み越えて、次に進んでくれる。俺はそう信じています。
『全部俺の我が儘なんっすけどね』
『―――…俺、やっぱテメェに鈴理を任せてよかったわ。心底思う。一時でもあいつの恋人になってくれて、あんがとな』
これからもしょうがないから、仲良くしてやるよ。俺様と友達でいたいだろ?
努めて傲慢に申し、『今度からは味方だ』何が遭ってもお前の味方でいてやる。財閥界で困ったことが遭ったら言って来いよ。
玲との仲も俺は見守る立場を取るから。
そう言って後輩に笑いかけた。
『責めてくれた方が』まだ心軽いのに、本当に泣きそうになった後輩の顔を今でも忘れられない。今でも。
(玲なら豊福をでぇじにする。豊福も次第次第にあいつの良さに惹かれて恋に落ちるだろうな)
本当の意味で恋に落ちたとしても、自分は祝福してやるのだろう。一先輩として。
だが問題は鈴理である。
このままでは前にも後ろにも進めない。時が止まったまま、一刻一刻を過ごしていくことになる。
鈴理の部屋に到着する。
晶子がノックして応答を待つが、声は返ってこない。何度ノックしても同じ結果に終わる。
「おかしいですね」ご不在でしょうか。首を傾げる晶子に、「いや。いるなこれは」と大雅が答えた。
きっとあいつは中にいる。
何年も付き合っているのだ。それくらい空気で分かる。
大雅は晶子に飲み物を持って来てもらうよう頼んだ。此処は一人で自室に乗り込んだほうが良さそうだと踏んだからだ。
一礼して去る晶子の背を見送るとドンドンドン、ドンドンドン、ドンドンドン、大雅は連打ボタンするように高速でノックした。
「おい鈴理、いるんだろ。俺だ。メールで行くっつったよな? 開けろ。じゃねえと勝手に開けちまうぞ」
内鍵を掛けていたら蹴破ってやるから覚悟しな。
そう脅してノックを続けていると、「近所迷惑だ」もっと静かにノックしろと応答が返ってきた。
「ったく。いるなら返事しろっつーの」
軽く扉を爪先で小突き、開けろと命令する。
間を置かず扉が開かれた。そこに立っていたのは不機嫌に眉根を寄せている鈴理。何故か上はブラのみ、下は短パン姿だった。寝ていたのか、髪があちらこちらにはねている。
大雅は憮然と息をつき、「シャツくらい着ろよな」と文句を零した。
しかもブラ、ピンクかよ。へえ可愛いじゃん。
ジーッと胸を見つめて観察する大雅に、「あんたな」マジマジ胸を見るなんて失礼だぞ、と鈴理が肩を竦めた。



