前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―


 
「あいつのご両親は豊福に苦労を背負わせたくない一心で、僕達御堂家に子息を預けた。それがあいつの幸せだと思ったから」
 

壁から背を離し玲が隙間程度に点滴室の扉を開け、すぐに閉める。

「可哀想に」人質のあいつは御堂家に逆らえなくなってしまった。

己の人生すらジジイに捧げろと命じられ、それに従う他、術をなくしてしまったのだ。

本当は自分の人生を自由に生きたいだろうに、自分の両親のため、御堂家に恩を返すため、重たい家事情をその背に負ったのだ。


「僕はそれが心苦しくて仕方がないんだ。今、あいつは僕の家で過ごしているんだが、殆ど部屋に篭っている。僕等家族に迷惑を掛けないように」

「しかし、何故そこまで。空は庶民出だぞ?」


「簡単だよ鈴理。世継ぎを得るためだ。僕が極端に男嫌いなのは知っているだろう? そのせいで男を作らず、ジジイはさぞ焦れていたことだろう。
そんな時、僕が豊福という男に興味を持った。そしてその男は借金を負っていると知った。ジジイはそれに目を付けて婚約を取り仕切った。さっさと世継ぎを産ませるために。男を産ませるために」


果たして利益ばかり求めるあのクソジジイが肩代わり“だけ”に手を下したのかどうか、孫として疑問を抱くところだが。
  

「豊福が君達を裏切った行為をしたのも、そうせざるを得なかった。あいつにはあいつの、守るべき人達がいるのだから」
 

ここまでで何か質問は?
 
玲の問いに、事情が重過ぎて疑問すら出てこないと大雅がぶっきら棒に返す。

そんな事情があるなら、どうしてそれを話してくれなかったのか。

彼は続け様、不満を漏らした。
そういう事情があるならば、理不尽な怒りを向けることもなかっただろうに。
 

その疑問に玲が答える。
 
「御堂家を気遣ったんだ」借金を媒体に婚約した、なんて不誠実な理由じゃないか。

それに、二人にも気遣ったのだと思う。
余計な気を回したくなかったんだろうさ。

君達には君達の婚約問題があるのだから。潔く婚約を受け入れているなら話は別だけど、ね。

 
端々に嫌味を飛ばしてくる玲に、「それでも」言ってくれたら関係は変わっていただろ? 鈴理が反論する。眼光を鋭くした玲はどんな風に? と詰問した。
 

「険悪な仲にならなかった、とでも言いたいのかい? 確かにそうだ。でも、それだけのことだろう? 支えになることも、救うことも、今の君にはできない」