総合病院に到着すると一目散に受付に駆けた。
動揺に動揺している俺の代わりに、鈴理先輩が看護師さんに母さんの名前を告げて居場所を聞いてくれる。A点滴室にいると教えてもらい、すぐさまその部屋へ。
人の迷惑も顧みず廊下を駆け抜け、転がり込むように中に入ると、ベッドの上で上体を起こしている母さんがそこにはいた。
意外にも母さんは元気そうだ。
青褪めた顔で飛び込んでくる俺を見て、「空さん?」心底驚いた後、事態を知ったのだと悟り、心配掛けましたねと苦笑いを浮かべている。
事情を聞けば、母さんは過労で倒れたそうだ。
最近、パートの仕事を増やした上に真夜中まで内職に勤しんでいたらしい。歳には敵わない、体力が落ちていると溜息をついている。
「なん、で」そんな無茶を。ベッドに歩んでがっくりと両膝を折る。
母さんの困ったような笑みですべてを察してしまった。
母さん、少しでも借金を返そうと無茶をしたんだ。誰でもない、俺のために。
「些少でも借金がなくなれば、空さんの負担も軽くなると思ったのですけれど」
嗚呼、馬鹿だ。母さんは大馬鹿だ。
借金の代わりに俺を御堂家に預けたんじゃないか。
断腸の思いで俺を手放したのも知っている。それだけでも母さん達の苦痛だっただろうに、どうして俺の幸せばかりを考えるのだろう。
俺が婿養子になることで返済する借金が相殺される。
どうしてその現状に甘んじてくれないんだよ。体を壊したら元も子もないじゃないか。過労死したら……、どうするんだよ。
「ごめんなさいね、空さん。借金を軽くするどころか心配を掛けてしまって。借金を軽くすることすらできないっ、親で本当にごめんなさいね。貴方には苦労ばかりですね」
母さんがベッドに縋って身を震わせている俺の頭に手を置いてくる。
くしゃくしゃに顔を歪め、「嫌いだ」体を大切にしない母さんなんて大嫌いだ、と必死に涙声を振り絞った。
重ねて、「平気だから」借金なんて平気だから、お願いだから体を大切にしてくれと主張する。
不慮の事故で家族を喪う悲しみを、もう味わいたくない。家族に置いていかれたくない。
母さんが倒れたと聞いて気が気じゃなかったんだ。借金よりも、母さん達が倒れられる方が平気じゃない。平気じゃないんだ。
「無茶するなら……、俺っ、働くから。学校を辞めてっ、俺が働くから」
「空さん……、馬鹿なことを言わないの」
「馬鹿はどっちだよ。俺は家族で幸せになりたいのにっ」
ひとりで幸せになったって無意味なんだ。
しゃくり上げる聞き分けの無い子供に、「本当に困った子ですね」普段はちっとも我が儘を言ってくれない子なのに。
母さんは泣き顔でいつまでも俺の頭を撫でた。申し訳無さそうに、いつまでも撫でてくれた。



