「なん、で。豊福が此処にいるんだよ」
 
 
これは財閥会合だぞ。
 
目で訴えてくる訴えに答えるため、俺は先輩達に歩んだ。数歩で足が止まる。手首を掴んできたのは御堂先輩だ。
 
心配をしてくれているのだろう。
俺は大丈夫だと相手をチラ見、頬を崩して挨拶をするだけだと目尻を下げる。

「違う」豊福は勘違いをしている、鋭い声音が帰ってきたのはその直後。力任せに手首を引いて体を引き戻してくる御堂先輩の行為に目を瞠ってしまう。否、重ねられた唇に驚愕。

 
触れるだけの口付けは周囲から悲鳴やら、野次やら、名を紡ぐ声やら。
 
 
後頭部に回されていた手が、そっと俺の髪を引いて距離を作る。
 
鈍痛を感じたけれど、そんなことは二の次、三の次。

目を白黒させて相手を見つめる。


勘違いをしている、王子は言葉を繰り返して一笑を零した。
 
 

「彼女の下に行かせたくない。君の泣き顔を見たくない。傷付く姿を目の当たりにしたくない。―――…豊福、これは僕の我が儘だよ。だって君は僕の大事な婚約者なのだから」



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