前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―




嗚呼、帰りてぇ。

額に手を当て、彼女の周りに集まっている令嬢達から背を向けた。
 
御堂先輩、ファンであろう令嬢達に迫られてやんの。
彼女も女性に甘いから一々ご挨拶して口説いているよう。女性が女性を口説くってどーよこれ。

彼女が学ランを身に纏っているだけマシな光景に見えるけど、婚約者としては複雑。超複雑。嫉妬ではなく困惑が胸を占めている。
 

「お嬢様には空さまがいらっしゃるのに」


あれを浮気と称さずになんと言いましょう!
 
グスンと涙ぐむ蘭子さんは悔しそうに木綿のハンカチを噛み締めていた。

空笑いを浮かべつつも、「大目に見てあげましょうよ」彼女は本当に女の子が好きみたいですし、と慰めの声を掛ける。

浮気なんて大袈裟だ。
彼女は真摯に女の子が好きで、会話を楽しみたく接しているだけなのだから。

口説きに問題はあるけれど、彼女が楽しんでいるならそれで良いと思う。

 
寧ろ、問題があるとすれば俺だ俺。
 
熱烈なファンがいると知った手前、安易に御堂玲の婚約者です、と名乗ることは命を捨てるも同じだ。

隠し立てする必要性はないだろうけれど、命は惜しいものである。ただでさえ鈴理先輩の親衛隊とのイッターイ体験があるゆえ、女子達の取り巻きに近寄ることすらできない。おざなりで下僕と促すのも手だよな。

うん。女子を敵に回すなんて俺にはできないよ。

 
軽快な口調で挨拶をする御堂先輩は、「すまない」今日は可愛い子猫ちゃんとお茶はできないんだ。と、歯が浮くような台詞を吐いていた。

子猫ちゃん! 今時のイケメンさんでもそんな単語は吐かないのに!


「なら、私達とお部屋までご一緒しましょう」


ただでは引き下がらない御堂先輩のファン、恐るべし。

王子様は苦笑を零して各々頭を撫でるとごめんね、と謝罪してその申し出すら断った。

落胆の声を上げるファン達を余所に早足で俺達の下に戻って来た御堂先輩は、「ごめん豊福」ひとりにさせてしまって、と手を取ってくる。

もう一度言うけど手を取ってくる。ファンが向こうにいるのに、だ。