財閥会合は某大手企業ビルの一室を貸しきって行われるらしい。
さすがは財閥会合。金のかけ方が一回りも二回りも違う。
一体幾ら支払って一室を借りたのか、誰がその金を出したのか、非常に気になるところだけど今の着眼点はそこじゃない。
エントラスホールに溜まっている人間達に問題がある。
右に視線を配れば華のウンタラお嬢様学校の生徒が数名。
左に視線を配れば紳士で噂だっているウンタラお坊ちゃん学校の生徒が数名。
見渡す限り金持ち校で名を轟かせている生徒ばかり。
通っている制服で判断しちゃいけないのだろうけど(俺だって元金持ち校の生徒だし)、さすがは財閥会合に集うジュニア達だよな。見事に金持ち校の生徒ばかりだ。
それだけじゃない。
醸し出す空気がいかにも財閥の令息令嬢。耳を澄ますと聞こえてくる会話が異常も異常なんだ。
「昨日ゴルフに行ってさ」「何処の?」「専属の私有地で」「ああ、この前土地を買ったって言っていたな」「また親父が買ってくれてさ」「いいよな」「お前のところだってポルシェを買ってもらったんだろ?」「まだ免許も持ってねぇんだぜ? 運転できねぇのに買って貰ってもなぁ」
「この前はお茶会に誘ってくれてありがとう」「喜んで頂けて嬉しいわ」「今度は私の別荘でお茶しましょうね」「軽井沢だったかしら?」「いいえ、伊豆よ」「まあ良いところじゃない!」「お茶会をしてくれた熱海も良いだったわ」
……、俺、金持ちとお友達になれない!
周囲にいるお金持ちといえば、鈴理先輩や大雅先輩、宇津木先輩に御堂先輩となるのだけれど、日常会話にこんな異常な会話は飛び交わなかった。性的な意味では不謹慎な単語が飛び交っていたけれど、それにしてもこれは酷い。
庶民出の俺にはついていけない世界である。
私有地でゴルフ? ポルシェを買ってもらった? お茶会に別荘? なんじゃならほい、アメリカンジョークならウケねぇよレベルだ。
我が家なんて聞いて驚け。
運動はスーパーのタイムセール、お茶会は自宅、自家用車ならぬ自家用チャリで日々を過ごしている。
すげぇだろこれ。金持ちには絶対にマネのできないことだろ! へっ、ザマーミロ!
(このボンボンどもめ。不況の波に揉まれている庶民の苦労を味わってみろ!)
性格の悪い俺は心中で盛大に悪態をつきまくる。僻みと言われたらそうかもしれない。
エントランスホールに集う人間を見ただけでUターンしたくなった俺は、ふと御堂先輩の姿が見えないことに気付く。あれ、おかしいな。さっきまで俺の隣にいた筈なのに。
お付き人の蘭子さんに視線を向ければ、「またお嬢様は……」蘭子は悲しゅうございます、と着物の袖で目元を押えていた。
なにやらヤーな予感がして婚約者の姿を探す。
彼女の姿は容易に見つけることが出来た、が、なにやら女子の人盛りが。まさかと思うけれどあれは。
「玲さま、御機嫌よう。今日も凛々しいお姿で」
「貴方に会える日を心待ちにしておりました。どうぞ会合は私とお茶を」
「ま、抜け駆けは宜しくなくってよ。鷲見(すみ)財閥のご令嬢」
「八城財閥の貴方様こそ玲さまに色目を使わないで下さる? 最初にお声掛けしたのは私ですよ?」
「喧嘩は良くないよ。折角の可愛らしいお顔が崩れてしまうじゃないか」



