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突然だけど俺の婚約話は誰にも告白していない。
 
仲の良いフライト兄弟にも、先輩達にも、担任にも、どんなに親しい相手だろうと今回の一件は安易に公表できなかったんだ。

いずればれると分かっていても、できるだけ学院生活では静かに時間を過ごしたい。


その気持ちが俺の口を閉ざしてしまっていた。
 

だからと言ってへんに態度を変えたわけでもない。

秘密が増えただけで、学院生活は至って普通だ。勉強に勤しんだり、フライト兄弟と駄弁ったり、時たますれ違う婚約カップルと会釈したり。


そういやちょいちょい視線を感じる。


まーだ俺達元カレカノカップルを注目している生徒がいるのかなって疑問に思っていたんだけど、ある日俺は視線の正体に気付く。


それは俺が図書室に向かっている時の事だった。

背後からグスグス鼻を啜る音が聞こえて、俺は振り返った。

すると男子便所入り口に隠れているであろう見守り隊の、つまり鈴理先輩の親衛隊さん方が立っていた。


何してるんだろ?

呆れながら向こうを観察していると、副隊長の高間先輩が目を潤ませてシクシクと泣き出す。

 
「隊長。何故、自分達は毎日のように豊福空を観察しているのでしょうか。何が悲しくて野郎を観察してっ」

「馬鹿! 御堂くんのご命令は絶対だぞ! 観察帳を元にレポートを書かなければっ、あの方に殺される!」


「自分。アイドルを観察したいです」でもアイドル、最近親衛隊をここぞと無視しているんで辛いです。

Mな自分は詰られたいのです。と、高間先輩。


隊長の柳先輩が分かる、気持ちは痛いほど分かるって彼とアッツーイ抱擁を交わしていた。

むさ苦しい抱擁に便所に向かっていた男子生徒がドン引きしている。