此処に来てはじめてリラックスができた俺は茶室に連れて来てくれた婚約者に礼を言う。
今、俺は肩の力が抜け切っている。
さっきまでガッチガチに体が凝り固まっていたんだ。色々頑張らなきゃいけないって思いが強くて。
きっとそれを見越して御堂先輩は俺を此処に連れてきてくれたんだろう。彼女の前じゃ虚勢は通用しないからな。
御堂先輩は俺の隣に移動して、「気鬱は沢山あるだろうけど」遠慮はしなくていいからな、と手を取ってくる。
飲み終わった茶碗を置き、俺はその手を静かに握り返した。今の俺にできる精一杯の気持ちだ。
彼女には本当に感謝している。
その優しさに、俺は支えてもらってばかりだ。
けれどまだ俺は彼女の想うような気持ちにまで至っていない。
怒涛のように事が流れていくから、俺自身の整理が儘ならないんだ。
それはきっと御堂先輩も分かっているんだろう。しっかり手を結んで笑みを零してくる。
「僕は君の心を縛るつもりはないさ」
君は君のままでいればいい、御堂先輩は目尻を下げた。
次いで、
「僕自身が君を落とさないと意味がない。
―――…ジジイが何を目論んで君を借金のカタに取ったか本心は見えないが、僕はジジイの思い通りにはならない、絶対に」
ぐらっと視界が揺れた。
畳の上に寝転んだ俺に覆いかぶさってくるプリンセスは、「容赦はしないぞ」落とすつもりなんだから、それなりの攻めは覚悟してもらわないと。
自分もそんなに出来た人間じゃない。
隙あらば手は出すと言って、骨張った食指が唇に触れてきた。
あっれ、ものすげぇアダルトチックな雰囲気にっ……、持ち前のヘタレ本能が警鐘を鳴らす。
ちょ、タンマっす。
確かに婚約者にはなりましたけど、まだ何も心の準備がっ!
俺は俺のままでいいんっすよね?!
じゃあ、ちょっと退いて下さいっ、逃げさせて下さい!
このままじゃ最後まで流れ込みそうな雰囲気だし!
「せ、先輩。茶室で何しようとしているんっすか! ど、退いて下さいって!」
「豊福、知っているか? 浴衣はとても肌蹴やすいんだぞ」
「肌蹴やす…? っ、ぎゃぁあああ! ちょ、帯を解かないで! 俺っ、む、結び方知らないんっすから!」
ああっ、解いちまいやがった!
しかも覆ってくる御堂先輩の、このアングルはなかなかきつい。
男のサガなのか、どうしたって彼女の胸に目が流れてしまう。
浴衣だから胸が強調されるんだ。
いつもだったら学ランだからそこまで気にしないんだけど。
今回はきつい!
頭の中でB、いやCはあるかなって考える自分がおばか過ぎて死にたい!
嗚呼、この状況全部がきつっ…、ゲッ、この感触は。



