廊下に出た俺は慣れない浴衣に気を配りながら、御堂先輩と肩を並べた。
しっかりと俺の手を握ってくる御堂先輩は広いひろい家内を案内してくれる。
最初から何が何処にあるのか全部を憶えることはできなかったけど、御堂先輩と夫妻の部屋、トイレ、風呂場は憶えることができた。
まあ、必要最低限の部屋は憶えられたと思っている。
俺、基本的には自室に篭る予定だしな。
人様のお家をうろうろなんてできないだろ。
ましてや借金を肩代わりしてくれた人達の家だ。
下手に動いたらヤらかしそうだし。
先輩の案内の下、家内をぐるっと一回りした俺は彼女と共に茶室に足を運ぶ。
茶室って名前が付いているだけに何をするのかおぼろげに分かる。
でも念のために此処で何をするのかと聞いた。
すると、「茶を嗜むんだ」折角だから豊福に茶でもてなそうと思ってな、御堂先輩がウィンクしてくる。
もしかしてそれって茶道ってヤツ?
うぇええっ、俺、マナーとかちっとも分からないっすよ。
小学校の家庭科で体験したっきりなんっすから!
そう言うと御堂先輩は安心しろと俺に告げた。
もしかしてマナーには目を瞑ってくれるのかな? っと思いきや、
「僕も作法なんて分からないから」
生まれてこの方、まともに茶を淹れたことがないと言い切った。言い切ったよ、目前のお嬢様は。
「いつも蘭子にお小言を貰うんだ。
『そろそろお茶を淹れられるようになって下さいね』と。
茶なんて淹れたら、すべて同じ味だと思うんだがな。大丈夫、不味い茶は淹れないから」
どうしよう、すっげぇ不安になってきたんだけど。
そういえば蘭子さんが言っていたな。ゆで卵もまともに作れないって。料理関連に関してはてんで駄目って言っていたっけ。
……大丈夫だよな、御堂先輩。お茶くらいちゃんと立てられるよな?
「期待して待っているっす」
不安を抱きながらも、俺は彼女に期待を寄せた。
任せとけとはにかむ御堂先輩は俺を適当な場所に正座させると、「まずはどれを使うんだったかな」棚に入っている茶道具に目を向け腕を組んだ。
この時点で俺の期待値は不安値に変換される。
一応道具の名前は知っているようで、棗と呼ばれている薄茶器や茶筅(ちゃせん)、茶杓、柄杓等などといった道具の名前を口にしている。



