博紀さんの後をついて行く俺は、御堂家の皆さんは帰宅しているのかと尋ねた。
「そろそろ玲お嬢様がご帰宅すると思います」
旦那様と奥方様は先程ご帰宅しましたよ、と博紀さんが教えてくれる。
緊張を胸に抱えた。
俺にとって義理の両親になる源二さんと一子さんが帰ってきているんだ。
嗚呼、なんて挨拶しよう。
ちゃんと挨拶できるかな。
ドッドッドと高鳴る胸を押えながら、大間に案内される。
その部屋はいつぞかの料亭で食事をした部屋以上に立派で綺麗だった。
中央に置いてある短脚の長テーブルを中心に、掛け軸や生け花、それに庭園を一望できる大きなガラス窓が俺を出迎えてくれた。
食事の用意が整っているテーブルには、既に御堂先輩のご両親が席に着いている。
失礼しますと両膝をついて挨拶する博紀さんに倣って、俺も膝をついて挨拶するんだけど、「空さまはいいんですよ」と笑われてしまった。
いやでも居候する身分だしっ、なんらかの挨拶は必要なんじゃないかと!
所詮は借金の肩代わりで借金持ちの息子だしさ!
狼狽する俺に源二さんが大笑いした。
気兼ねなく入って来なさいと言われ、俺はキョドりながらおずおず指定された席へ。
向かい側に座る御堂夫妻に会釈して、「お邪魔しております」と当たり障りのない挨拶をする。
夫妻は本当に良い人で硬くならなくていいって俺に声を掛けてくる。
「きょ、恐縮です」ただどうしても緊張が払拭できなくて、強張った笑顔で言うと、「大丈夫ですよ」一子さんが優しく微笑んだ。
借金の肩代わりで婚約した手前、どう動いていいか分らない俺に、いつもどおりの自分でいればいいと一子さんが言ってくれる。
「そうは言っても戸惑いでいっぱいでしょうけれど。少しずつ緊張をほぐしていけば宜しいと思うのです。わたくしも夫も貴方様のことを認めて玲と婚約させたのですから、もっと堂々として良いのですよ」
「一子の言うとおりだ。空くんは堂々として良い。私も婚約者が男だということに心底安心しているんだ」
「み、御堂先輩の男嫌いは凄まじいですからね。
えーっと、お二人のことはなんとお呼びすれば宜しいでしょう。今までどおりの呼び名では失礼かもしれませんのでお尋ねしておきます」



