「―――…も、申し訳ございません。此方の指導が行き届いていなかったばっかりにっ。お茶菓子を空さまに投げつけるなんてっ、何をしているんですか。さと子!」
「ご、ごめんなさい。悪気はなかったんです。ちょっとお、驚いてしまって」
「驚いたからってお茶菓子を投げつける馬鹿が何処にいますか! 空さまは玲お嬢様の大事な婚約者さまですよっ。来て早々お怪我までさせて」
うぇーんごめんなさい。
涙目で謝りまくるさと子ちゃんに、泣いて謝る問題じゃないと蘭子さんが叱り飛ばす。
俺に熱々の茶と菓子類を投げつけてきたのは、新人の桧森(ひもり) さと子ちゃん。
年齢的に言えば俺と同い年になるんだけど、彼女は高校に通わず御堂家の召使として日々精進しているそうな。
ついちゃん付けをしてしまうのは、彼女が童顔で年下に見えるからだろう。
まだ入りたてでアガリ性ゆえに接待が苦手らしい。
だからこそガッチガチに緊張して俺のいる部屋に来たらしいんだけど、まさかお盆を投げつけられるなんて夢にも思わなかったよ。
おかげで軽く肩を火傷しちまった。
大した怪我じゃないからいいんだけどさ。
「ありがとうございます」
男の召使さんに薬を塗ってもらった俺は、いそいそと臨時でカッターシャツを羽織る。
「いえ。此方こそ申し訳ない限りです」
謝罪してくるその人、七瀬 博紀(ななせ ひろき)さん。
今年で五年目のベテラン召使さんらしい。
ちなみに俺の五つ上だって。
応急手当をしてもらっている一方で、蘭子さんの形相と怒気に身を縮みこませているさと子ちゃんが、とうとう泣き出してしまった。
それでもまーだ蘭子さんがさと子ちゃんを叱っているもんだから、なんだか見ていられなくなってしまう。
「あの、俺も悪かったんです。さと子ちゃんが来たことに気付いたのに、俺、着替え中だって言わなかったわけですし」
「だからって前代未聞ですっ。お客様にお盆を投げつけるなんて!」
確かに、俺も身を持って未曾有の事件を被りましたけど。
グズグズと泣いているさと子ちゃんをチラ見した後、「じゃ。じゃあ」名誉挽回ということで俺のカッターシャツを洗ってもらえるかと提案する。
さっきの騒動でシャツが汚れたんだ。
あれ一着しかないわけだし、学校に着て行くものだから、洗ってもらえると助かるんだけど。
そう言うとさと子ちゃんがちょっと落ち着いたのか、「頑張ります!」と勢いよく立ち上がる。
ただでは折れない子みたいだ。
うん、良かった良かった、そういう子は好きだよ。



