部屋に戻ると、双方の父親がテーブル上に置いてある紙切れに何やら万年筆を走らせていた。

まだ何も手をつけていない料理を隅に寄せて、薄っぺらいB5サイズの紙にサインらしきものを書き込んでいる。

席に戻ると、父さんが軽く説明をしてくれる。


一つ一つに相槌を打つ俺はすべてを聞き終わると、父さんから万年筆を受け取って紙を自分の方に手繰り寄せた。


紙には契約書とその内容の書かれたワープロ文字が目に飛び込んでくる。

内容に目を通すと、俺は署名欄に自分の名前を記入した。

万年筆を置くと、父さんから朱肉を受け取って親指にインクをつける。

指判子、所謂拇印(ぼいん)ってものをすると紙切れを父さんに返した。


何処か寂しそうに契約書を受け取った父さんは、同じように拇印を押している御堂先輩の行為が終わるのを待ち、頃合を見計らって源二さんの前にそれを差し出す。

二つの書類を見比べた源二さんは、これですべてが成立しましたと目尻を下げた。
 


「確かにご子息はお預かりしました。責任を持って、ご子息をお預かりしますのでご安心下さい」



―――…不思議な感覚だった。

ただ紙切れにサインと拇印を押すだけで俺と御堂先輩の関係が変わっちまった。紙切れ一枚で。

鈴理先輩もこんな気持ちだったのかな。

物心ついた時から大雅先輩とは許婚で、17になったある日を境に婚約者へと昇華する。


それがこんなにも呆気なく、味気ないものなのか。

二人の関係は親の意思一つで変わった。


同じように今この時を持って、俺と御堂先輩の関係も変わった。


自分の人生が紙切れによって大きく変化したんだ。


ただただ不思議な気持ちに駆られる。