「あの、婚約じゃなくて俺が住み込みで働くとかは駄目ですか?」
住み込みで働くなら始終俺を見張れるし、お金も稼げる。
踏み倒さない証になると思うんだけど。
鈴理先輩の家に行った時、住み込みで働いている召使さん達を見たから、御堂家も召使くらいいそうだ。
「働くって空さん」
学校はどうするんですか、母さんが横から口を出してくる。
「そりゃあ…」辞めるしかないと思うんだけど、口ごもる俺に母さんは駄目だと眉をつり上げた。
「あんなに苦労して入った学校を易々辞めるような真似は、私が許しません。ちゃんと卒業して下さい。生活のことは考えなくていいですから」
「そんなことを言っている場合じゃないって。苦労して入ったのは、そりゃそう…、なんだけど、でもっ、路頭に迷うよりかは全然いいじゃんかっ!
これからまーいにちもやし炒めになってもいいの?! 母さん達、栄養失調になって死んじゃうじゃんかー!」
「大丈夫です。空さんには栄養のあるものを食べさせますから」
「俺はいいんだよぉおお! 若いんだし!」
「伸び盛りに食べないでどうするんですか! 母さんが住み込みで働きます! 空さんは学校に行きなさい!」
ヤダ、働くんだ! 母さん、若くないし!
親子喧嘩を始める俺達に父さんが間に割って入る。
止めるかと思いきや、「学校は行きなさい」父さんが母さんの味方をした。
お互いに親と子を想ってなんだけど、こうなったら意地の張り合いである。
俺は働くの一点張りで、両親は学校に行きなさいの一点張り。
「絶対働くから!」「バイトは認めているだろ空!」「それはそれじゃんか!」「これはこれです空さん!」「これってどれだよー!」「どれはそれです!」「それもこれもないって!」「いやあるぞ空。これもそれもどれもあるからな!」
もはや収拾がつかない。
ギャアギャア喧嘩する俺達に、「ま。まあまあ」源二さんがどうどうと宥めてきた。
「此方はご子息を預けて欲しいのですよ」
働いて欲しいわけじゃないと言われ、すっかり念頭から婚約の話が飛んでいた俺達はハタッと我に返る。
んでもって気恥ずかしくなりながら、醜い姿をお見せしましたと一同揃って頭を下げた。
一呼吸置き、母さんが聞く。
「愛娘さんを安易に婚約させて宜しいのでしょうか?」と。



