前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「豊福っ、君はどこぞの悪女に目を付けられたんだい?! 預けて欲しいだなんてそんなっ…、確かに豊福は可愛いし、苛めたくなるし、食べてしまいたい気持ちになるがッ」

「先輩っ! 頼みますから親の前で変なことを言うのはやめて下さいよ!」


「何を言っているんだい。由々しき問題じゃないか! 豊福ッ、どんな悪女か説明してくれないか? 僕は悪女に君を渡したくない!」

 
人の物に手を出すとはどんな悪女だと一変して憤りを見せた。羞恥を抱いて姿は何処へやらである。

親の目を気にしつつ、シーッと人差し指を立てて静かにしてくれるよう促すんだけど、向こうは暴走気味。


「まさか豊福を娶(めと)る輩が出てくるなんて」


油断していた、プリンセスは舌を鳴らす。


「きっと君を預かってあーんなことやこーんなことをしようとしているのだろうけれど、そうは問屋が降ろさないぞ悪女。くっ、こうなる前に君と「お願いですからその先は言わないで下さいっす!」


何度も言うけど双方の両親がいるんっすよ!

こんなところで勇ましい男前な姿、じゃね、女前な姿を見せないで欲しいっす!


しかも悪女って、初っ端から相手を女だって決めないで下さいよ。

ビンボー普通くんを俺を狙ってくれる奇特な女性は鈴理先輩と貴方様くらいでしたから。


身を乗り出してくる御堂先輩に戻るよう頼むと、ようやく彼女が元の位置に戻ってくれた。


「豊福を預かるだなんて」


とてつもなく羨ましい申し出だな、とかなんとか盛大な独り言を呟く先輩に向こうのご両親はどことなく微笑ましそうに笑っている。

が、我が両親は、息子よ。彼女とはどういう関係だい? と意味深な眼を向けてきたりこなかったり。


嗚呼、居心地が悪い。
 

「お話を戻しますが、そちらのご子息を預かりたいと申し出があったのですか?」


源二さんの問い掛けに、「ええ」借金の肩代わりとして息子を預かりたいと言われました。けれど私達にはそんなことはできなくて。父さんが目を伏せる。

「豊福…」

心配そうに見つめてくる御堂先輩に、俺は苦々しい笑みを返すことしかできない。

借金のことは不本意ながらも、俺達が負ってしまった金だ。

肩代わりしてくれた人がいなかったら、すぐにでも家具や電化製品を売って、借りているアパートを退去しないといけなかったんじゃないかな。

学校のことは中退のことを視野にしておかないといけないだろうけど。


……やっぱ辞めないといけないのかな、学校。


知らず知らずにスラックスを握り締めて目を伏せる俺に、御堂先輩も顔を顰めてくれた。

彼女は本当に優しいな。自分のことのように豊福家の不幸を悲しんでくれるんだから。



「失礼ですが、肩代わりした方のお名前を窺っても宜しいでしょうか?」



源二さんが途切れた会話を戻す。

肯定の返事をする父さんは、がさごそと契約書の入った封筒を取り出して中身を確認。


「某経営コンサルタントの会長らしいのですが」


と、言って名前を告げようとする。


けどその前に思い当たる節があったのか、「御堂淳蔵ですか?」と問い掛けた。

その通りだと頷く父さんに、「淳蔵は私の父なんですよ」と源二さんが眉根を寄せる。

含みある吐息をつくと、少しばかり書類を見せてくれないかと頼んできた。

個人情報(プライバシー)が脳裏に過ぎったのか、父さんがやや迷う素振りを見せたけど、名前を的確に言い当てた相手を信じて契約書の入った封筒を相手に差し出す。

御堂って苗字が珍しかったのもあると思う。


相手が淳蔵の息子さんだって信じて父さんは書類の入った封筒を手渡した。
 

会釈して受け取った源二さんがざっと目を通すと、筆跡や印鑑を見てやっぱり自分の父の物だと判断した。


「五百万か」


借金の額を呟いた後、源二さんはすぐ父に連絡すると書類を返してくる。


更に秘書の人を呼んでその旨を伝えた。


一連の流れを見守っていた豊福家は一体これからどうなるんだろうとアイコンタクトを取り合い、口を閉ざす。