前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



出入り口から工夫されていて、スライド式の扉を潜ると和紙が張られた衝立が出迎えてくれる。

ぼおっと彩っている和紙は若葉色をしていてなんだか安堵感を呼んだ。

左右に置かれている季節花の香りが鼻腔を擽り、出迎えてくれるそこの店員も高そうな着物を着て俺達に挨拶をしてくれる。


個室に案内してもらう際、廊下を通ったんだけど、良い素材を使っているのか廊下そのものから木々の香りがして心落ち着いた。

洒落た行灯にも目が行き、嗚呼、本当に高い料亭なんだなって思わせてくれる。


障子向こうの個室もすっごい綺麗で、まず掛け軸が目に飛び込んできた。墨で描かれた世界はなんとも素朴で味わいがある。

傍らに置かれている生け花も凄くって見惚れてしまった。


まだ肩代わりしてくれた人は来ていないらしく、個室には誰も居ない。


だから俺達は緊張したままそこで待機するしかなく、敷かれた座布団の上に腰を下ろして正座。相手が来るのを待った。


何も話題がないから父さんが気晴らしに、出入り口から一番遠い掛け軸付近の席が上座だと教えてくれる。

曰く、あそこにはいっちゃん偉い人が座るらしいから、そこは空けているとか。


つまり俺達にとっての偉い人(=肩代わりの人)が座るというのだ。


得意げに社会の常識マナーを教えてくれる父さんだけど、時間が気になるのか腕時計をしきりに確認している。

母さんもそわそわ。

俺も辺りをきょろきょろ。


落ち着かない。


「裕作さん。今、何時?」

「うーん。七時十分。もう十分過ぎているみたいだが」


相手は遅刻しているらしい。

約束しているのに遅刻なんてっ、こっちとらぁ生活と人生が懸かっている一世一代の食事会だぞ!

ああもうっ、早く来ないかな。

待ち時間が一番堪えるんだって。

落ち着きなく時間を過ごしていると、母さんがふと疑問を口にした。


「お箸が並べられていますけど」


全部で六膳、お箸が並べられていますね、向こうも三人ほど人が来るんでしょうか? と首を傾げる母さん。

さしずめ、肩代わりの人、秘書、弁護士ってところだろう。

父さんは溜息をついた。