あれだけ大騒ぎになっていた噂も今は落ち着きを取り戻しつつある。

まだ注目は浴びるけど、当時よりかはマシになっていると思われる。
 

その間、俺達は噂に構う余裕なく多忙な毎日を過ごしていた。
 

何故かって来るべき期末テストが迫っているからだ。

一ヶ月前からテスト勉強をしないと、学力の高いエレガンス学院で上位を狙おうなんてまず無理だ。


塾通わずに上位狙おうとかマジ舐めんなよレベル。

お前、いっぺんテスト受けてみろ。マジ死ぬからレベルなんだ。


だからこそ俺の気は噂からそぞろになっていた。

こっちとらぁ生活がかかった補助奨学生だ。

がくりと順位を落としたら学校に通うことすらアブネェ。

なので最近の俺の神経は人三倍ピリピリしている。


大体テスト期間になると神経質になるタチなんだ。


ここ暫く、昼休みは職員室と図書室を往復している。

放課後も図書室に篭ることが多い。

よって昼食は教室で取っていることが専ら。野菜ばかり(というか野菜のみ)弁当を隅に置いて勉強バッカしている。
 

そんな俺にフライト兄弟の片方、アジくんが声を掛けてきた。
 

「そーら」マジ助けて、このままじゃ留年する、と泣きついてきたから俺は顔を上げる。

何処か分からないところでもあるのか? そう尋ねると、訳文ができないとアジくん。


昼休み後にある英語の宿題が終わっていないらしい。

「この宿題平常点に入るのに」

10分の1も終わらなかった、てか分からなかったとアジくんは嘆いた。
 
アジくんはすこぶる英語が苦手らしく、以前俺にテストを見せてきてくれたんだけど、見事にペケばっか。点数23点。

惜しい、あと2点で25点だったとアジくんは言っていたけど、担任と親にはめっちゃ怒られたらしい。

だよな、うちの学校、一応ブランド校だし私立校の偏差値は学区トップ。ゆえに勉強にはやたら厳しいんだ。

「空。お願いだよ」叱られるのはもうごめんなんだとアジくんが嘆く。


「まーた空くんに泣きついて」


側で化学の勉強をしているエビくんが呆れ顔を作った。


「“I have a dream”
キング牧師の演説を訳文するだけでしょ。ネットにだって一応、訳文は載っているんだ。PC室で調べてきたら?」

「英語の野沢っ、そういうの目ざといじゃねえかよ! 
しかも英語の成績が悪い俺だぞ? 後ろから数えて五位内に入る俺なんだ。立派に訳したらカンニングしたってばれるだろー! っ…、そして空は何をしてるんだよ」

「俺? 不思議の国のアリスの原文を読んでいるんだ。
野沢が息抜きがてらにってお勧めしてくれた。アリスって翻訳者泣かせってくらい、英語のくせに文章が曖昧なんだけど読んでいて面白いし、勉強になるから」