英也はこれで良いのかと悩んだ。
鈴理には約束された将来がある。
なのに見返りもない庶民と純粋な恋に溺れているなんて。
このままでは必ず将来の約束に支障が出る。常々思っていた。
だからこそ二階堂財閥のM&Aは良い契機だと思っていたのだ。
自分の立場を理解させ、彼とは良き友人でいなさいと教える良い機会だと。
彼と金輪際会うな、などとは言わない。
あれほど懸命に娘を守ってくれたのだから、寧ろ彼にはこれからもお転婆な三女を支えてもらいたかった。
ワイングラスの中身を飲み干し、英也は記憶のページを捲る。
彼氏である豊福空と独断で面会したことを。彼には財閥の将来や鈴理の幸せ、親としての気持ちを赤裸々に語った。
やや同情心を煽るようなことも言ったような気がするが、すべては未来のためだと偽善ぶった発言もいとわなかった。
彼女を思うなら、是非婚約式に出て欲しいとまで言った。
酷なことを言っているなことにも拘らず、彼は真摯に自分の気持ちを受け止めて承諾してくれた。
“英也さんは鈴理先輩を本当に想っているんっすね。その気持ち、今度は先輩に向けてやって下さい。彼女は個性の強い性格のせいでご両親に見定められ、愛されていないと想っている節がありますから”
ふーっと息を吐き、英也は桃子に視線を流す。
しきりに娘の身を案じる桃子は、いつか倒れるんじゃないかと過度に心配を寄せていた。同意見である。
「約束された未来ばかりを見ることが幸せ、だとは限らないんじゃないでしょうか?」
おもむろに咲子が意見する。
長女に視線を流せば、
「何より鈴理が決めた未来じゃないですから」
あの子にとって約束された幸せは幸せじゃないのかもしれない、と咲子。
言っていることが難しいと瑠璃が首を傾げるが、彼女は親の自分達に対して言葉を重ねた。
「人から決められた選択肢で納得するような子じゃないんですよ。鈴理は。
あの子は姉妹一、自分を持つしっかりした子。他の姉妹にはない強い自分を持っている。
そのうち、大きな行動を起こすかもしれませんね」
「咲ちゃん。大きな行動って?」
「そうね。駆け落ちとか」
「すっごーい!」声を上げる瑠璃はロマンチックだとはしゃぐが、両親には笑えない冗談である。三女なら本当にしそうである。
「貴方。駆け落ちされたらどうしましょうか」
本気で怯える桃子に、顔を顰めた英也は何も返せず、白ワインのおかわりを召使に頼んだのだった。



