ところかわって、次女と三女がいなくなったダイニングルーム。
白ワインを嗜んでいた英也はマイペースに食事を進めている四女から、このままで良いのかと質問を飛ばす。
こんなにも家族内の空気が重くなったことはない。
これは一理、両親の責任ではないか?
オブラートに包んではいるが、瑠璃は親を責めていた。
こうなったのはお父さん、お母さんのせいだと。
「鈴ちゃん。ちっとも食事しないし。真衣ちゃん怖いし」
唇を尖らせる瑠璃に、長女咲子が仕方がないと溜息をつく。
こうなることを覚悟して婚約式を挙げたのだろうから、と中立な発言をした。咲子らしい発言である。
英也自身も身勝手なことをしたという自覚はあった。
ある程度、親子間に隔たりも出来るだろうと覚悟はしていた、が、想像以上だったと思わざるを得ない。
どこかで時間が解決してくれるのではないかと甘い考えを寄せていたのだ。
しかし鈴理の恋心の強さは深かった。
時間が解決などと安易な考えを蹴り飛ばしてしまうほど。
妻・桃子は「強引過ぎましたね」やや反省の色を見せていた。
三女があそこまで家族を拒絶してしまうとは思わなかったと目を伏せる。
首肯する英也は、ワイングラスの中身を覗き込んで思案に耽った。
許婚がいながら恋人を作った鈴理。
彼女は以前から令嬢としての品に欠けるところがあったため、どうしたものかと悩んでいたのだが、まさか恋人を作ってしまうとは。
財閥界でちょっとした噂が立つほど、鈴理は恋に熱中していた。
ボーイフレンドとして認めてはいたが、それ以上を認めることができなかった。
ただの気まぐれだと思っていたが、鈴理が彼氏と誘拐されたあの事件で英也は密かに娘の本気を悟ってしまう。
身代金を要求する凶悪犯の手を逃れて助かった娘。
幸いなことに鈴理は無傷だったが、彼女代わりに彼氏は重傷を負った。
鈴理はこれ以上に無いほど泣き崩れていた。
彼が病院に運ばれICUに入った姿を見送った後も、頑なに病院から動こうとしなかったのだ。
ハンカチを握り締めて祈るように長椅子に腰掛けていた娘の姿に、本気の恋心が宿っているのだと感じ取ってしまう。



