「鈴理さん」
声を掛けると、力なく彼女が振り返ってきた。
ストローを銜えている鈴理は、ぷーっとパックを膨らませて遊んでいる。
微苦笑を零し、真衣は何を飲んでいるのだと話題を切り出して隣に腰を下ろした。
見たままだと返す鈴理は、一個80円するイチゴミルクオレを飲んでいるのだと教えてくれる。
こればかり飲んでいる。
というか業者から取り寄せたため、冷蔵庫の一つはこれで埋まっていると鈴理は語った。
もっと高価なイチゴミルクオレを飲めばよいではないか、そう言うと、これでなければ美味しくないと鈴理はパッケージに目を落とす。
「彼氏がいつもこれを飲んでいたんです。
安価ですけど、彼氏はこれが凄く好きだったみたいで。
食事をしないあたしにこのイチゴミルクオレをくれたから、これを飲んでいたのですが、いつの間にかクセになって」
なるほど。
思い出を噛み締めたいのか。
真衣は口に出さずそう思うと、ひとつ貰っていいかと言葉を重ねた。
「沢山あるのでどうぞ」
差し出してくれるパックを受け取り、二人でそれを飲む。
鈴理は早くも二個目に手を伸ばしていた。
「とても甘いですね」真衣の言葉に、「甘味が強いんでしょうね」と鈴理。夜風の囁きが二人の鼓膜を擽った。
ふと鈴理が口を開く。
「もしも令嬢じゃなかったら、最近そればかり考えています。令嬢じゃなかったら、普通の恋が楽しめたのでしょうか。真衣姉さん」
それともあたしがさっさと許婚を白紙にしなかったから……、ああそうだ。
きっと早めに手を打っておくべきだった。
そうすればこんなことにはならなかったのに。
彼氏には辛い思いをさせてしまった。
時間を戻せないだろうか。
問い掛けているようで、三女は独白をしていた。
ぼんやりと宙を見つめ、喉を鳴らしてイチゴミルクオレを飲んでいる。
真衣は間を置いて、「鈴理さんは羨ましいくらいに」素敵な恋をしていたんですね、と相手の頭を抱いた。
「ええ。とても」成されるがままの三女は弱弱しく笑った。



