「庶民育ちだからこそ分かる贅沢なんだって。ねえ、豊福?」
「あはははっ、まあ…」
「むっ。待て早苗。あんたが理解できて、あたしにできないなんぞ言語道断だ。その庶民の贅沢とやら、あたしも一度経験させろ。必ず理解できるから」
いやぁ、無理と思うっすよ。鈴理先輩。根本的に育った世界が違うんっすから。
でも鈴理先輩は本気で庶民の贅沢を理解したいようだ。バンバンとテーブルを叩き、
「空と贅沢を共有しているなんて」
小生意気だぞ、川島先輩に大説教。
これには俺も微苦笑。
喜んでいいやら呆れたらいいやら、どういう反応すれば良いんっすか。
嫉妬心を剥き出しにする鈴理先輩に、「あんたもようヤるわ」本当に豊福ラブなんだから、と川島先輩は口笛を吹いて感服。
昨日だって三年から告られていたのに、なーんて言われている光景を見て俺は気まずい思いを抱く。
隣人の様子に川島先輩はもしかして知らなかった、とちょい気遣いをみせてくれた。
答えは否。
告白の件は俺も知っている。
鈴理先輩の噂、学内で回るのすんげぇ速いから。先輩からも教えてくれたしさ。
鈴理先輩の気持ちを知っていても、やっぱ不安になるのは片隅で俺自身に自信がないからだろう。
だってしょーがないじゃん、俺は美人先輩と違ってすべてが普通くんなんだから。
金銭面じゃ下の下なんだし。
だけどこうやって不安を抱いていても先輩を気遣わせるって分かっていたし、俺は承知の上でお付き合いをしてるんだ。
こんな美人さんに好かれて、好きになって、付き合えて凄く幸せなんだ、俺。
「不安ならば、ゆっくり寝台の上で気持ちを伝えてやるぞ。空」
……、こういう面さえなければ、もっと幸せなんだろうけど。いつまで健全関係でいられるんだろう、俺等。
複雑な気持ちを噛み締めていると、
「だけどマジさ」
お前等が来てくれると助かる、大雅先輩が話題を切り替えた。
気の置けない顔見知りがいないとあんな立食パーティーやってられない、彼は箸をお椀に橋渡し。
お冷の入ったグラスを手に持って意味深に溜息をつく。