否、真衣は三女の姿を追ったのだ。


昔は四姉妹の仲で一番仲が良かった。


それが財閥特有の優劣等で家族内評価され、自分達の仲に隔たりが生じた。

真衣は寂しかった。
誰より令嬢に向いていないと嘆き、劣等感を抱いていた鈴理と和気藹々話せなくなった状況が。


なんでも人に言われたことをこなし、人と合わせることができる器用な真衣と違って、鈴理は個性が強いためかとても不器用だった。

誰にだって向き不向きがある。
わりと令嬢の肩書きに向いていた真衣と違い、鈴理は不向きだったのだ。
 

いつしか家族と一線を引くようになった三女。

そんな彼女の家内の様子はとても詰まらなさそうだった。

習い事はしっかりこなすものの、縛りがある家に鈴理は心底うんざりしていたようだった。


いつからだっただろう。
鈴理の本当の笑顔が家内で見られなくなったのは。
 

だが鈴理は恋人を作って変わった。

四姉妹間ではあるが、満面の笑顔を浮かべるようになったのだ。

本気で恋をしたんだと興奮気味に語っていた鈴理の、無邪気で輝いた眼といったら。


姉としてそんな顔を見られたことが、本当に嬉しかった。


何かに一生懸命になれるものができた。

それを自分の意思とは関係なく、誰かに取り上げられてしまったら誰だって怒れる。悲しむ。嘆くし、落ち込むだろう。
 

両親は将来のことを急ぎすぎた。

現状を把握していないで先ばかり見ているとどうなるか、ビジネスに例えればすぐに理解できるだろうに。

 
(どんなに将来が輝かしくても、過程を見据えなかった。現状と将来にギャップが出てくる。常日頃から企業に対する現実と理想のギャップを語っていたのだから―――…娘の事だって分かってくれてもいいでしょう)


三女の行方を捜す真衣は歩調を速めた。

なんとなく鈴理がいる場所は分かっている。
 

真衣が水辺のテラスに赴くと思惑通り、鈴理はそこにいた。

夜風が吹き抜ける渡り廊下を渡った真衣は、ほとりで腰を下ろしている三女を見つめる。

彼女は裸足になって水と戯れていた。


そのため水面は波打っている。

そしてそれは夜風に吹かれて小さく波立っていた。


鈴理の脇には紙パックが数個、放置されていた。

同じパッケージのパック。
表には『イチゴミルクオレ』とカタカナ表記されている。