俺の主張も彼女にスルーされてしまった。
嗚呼っ、女性に担がれる俺って惨め。まーだ受け男の受難は続いているのか?
……御堂先輩も攻め女だから、男ポジションに立ちたい人だってのは分かっていたけど、挨拶直後のこれはあんまりだよな。
下手に抵抗できないところが悲しい男のサガだ。
「先輩」御堂先輩に視線を流すと、「いづ屋に行こう」僕が奢るからと御堂先輩。
「え。いづ屋っすか? 先輩、いつも土日に来てくれているじゃないっすか」
「あそこは何度行っても飽きないんだ。
今日も抹茶Aセットを頼むつもりなんだ。あ、Bセットでもいいな。たまには駄弁るのも悪くないだろ? 土日じゃいつも店員と客だし」
綻んでくる彼女に、「だからって食べ過ぎっすよ」俺は呆れ笑いを零して承諾をした。
その前に下ろしてください。逃げませんから。
相手に強く主張すれば、やっとアスファルトに足を突くことが許された。
安堵の息を漏らす俺に、部活の話を聞いて欲しいんだと御堂先輩が話を切り出してくる。その顔はややしかめっ面に近い。
何か嫌な事でも遭ったのかと尋ねれば、今度するお芝居の配役が決まったらしい。
なんでも王女役に抜擢されたとか。
まさしくプリンセスに相応しい役だと思うんだけど、何が問題なんだろう?
話をよくよく聞けば、彼女は女役がとても苦手らしい。
普段の言動が男だから(格好も男装だから)、女性らしい女性の振る舞いがどうしてもネックになるとか。
「姿は王女になれても、言動が雄々しくなってしまう」
「おかげで初っ端からNG連発だ」大きく溜息をつく御堂先輩に、俺はこれからじゃないっすかと励ました。
「先輩ならできますって。雄々しくても女の子っすよ。こういう時こそ女の子の先輩を開花しても良いと思うっす」
「僕は女の子を口説くことが楽しくて仕方がないんだ。なのに貰った台本にはっ……、人から口説かれろと指示されてある。
しかも横抱きされるシーンがあるんだが、僕はされたいのではなくしたい側なんだ。す、ストレスだ!」
「えーっと。たまには女の子を楽しめってことじゃ」
「口説かれて何が楽しいんだい? わりと背丈のある僕を横抱きにして何が面白い?!
僕が一番にストレスに感じているのは面子。
今度の芝居には野郎が関わってくるんだ。僕の通う高校は付属校で男女別れているんだが、まさか男と合同でするなんて。
しかも王子は男。何が悲しくて男に口説かれないとっ…、横抱きにされないといけないんだ。嗚呼、先輩に頼んで配役を変わってもらいたい」
今ほど女に生まれたことを呪ったことはないぞ。
むむっと眉根を寄せている御堂先輩のおかしな顔に、俺は笑声を零してしまう。