「あ、いらっしゃいませ。お客様、何名……、御堂先輩じゃないっすか。いつもありがとうございますっす」
そうそう。
俺の日常の些少な変化といえば、勤務しているバイト先に御堂先輩が高い割合で出現するようになったってことだ。
あの日あの時あの瞬間に崩れそうな俺を支えてくれたプリンセスは、俺がバイトに入っている土日によく顔を出してくれる。
彼女が来るたびに鈴木さんが半べそになるから、なるべく俺が接待をするようになった。
彼女はいつも、おはぎと抹茶の抹茶Aセットというものを頼む。
おかげさまで席に着くと「いつものですか?」って聞くようになった。まさしく御堂先輩はいづ屋の常連客だ。
御堂先輩はいづ屋で台本を読むのが習慣みたい。
演劇部として自分の受け持った役、いや劇自体を熱心に頭に叩き込んでいる様子がいつも見受けられる。
時々読書を嗜んでいたりもするけど、大半は台本に目を通していた。
感心したよ、あんなに熱心に台本を熟読しているんだから。
俺があがる頃に彼女もいづ屋から出て、途中までの帰路を一緒にすることも多くなった。
彼女が俺を待ってくれているんだ。
約束しているわけじゃなかったけど、毎度待ってくれているって知っていたから俺もあがった後、先輩が店内に残っているか目で姿を探すようになった。
そうして自然と一緒に帰る流れになる。
送ってくれることもあったけど、毎度送ってもらうのは悪いし(そして送ってもらう度にちょっかい出されるし)、分かれ道まで先輩と歩いた。
会話はしごく他愛も無いことばかりで、お互いの学校生活や部活のことをもっぱらの話題にしている。
俺は勉強メイン、先輩は部活メインって具合だ。
それは友人間で交わす会話で、普通に会話は盛り上がる。
友達としてなら御堂先輩とは上手くやっていけそうだとつくづく思ったよ。
……恋愛としてはどうだろう。
彼女は俺を好きと言ってくれたけど、俺は鈴理先輩のことを完全に引き摺っているから今のところ恋愛はおごちそうさまです。おわかりはいりません状態だ。
好きって言ってくれたんだし、俺も真剣に考えないといけないんだろうけど、今はそのまだ……って感じだ。
そこまで俺もできた人間じゃないから。
御堂先輩もあの日以来、あからさまな好意を口にすることはなくなった。
俺を気遣っているのか、それとも別の思惑があるのかは分からないけど、一友人として接してくれる。
だからこそ俺も気兼ねなく会話できた。



