前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「っ」俺は声を押し殺して相手の悪戯に耐える。 

さっきまで人の体にキスの痕を付けていたくせに、標的を耳に変えてきた。

性感帯って耳にもあるらしいけど、俺ってあれだ、うん、あれ。感じやすいらしい。

だから毎度の如く先輩が狙ってくるんだけど、まさか最後まで狙ってくるなんて。アウチ、容赦ねえ!


すっかり受け身男モードになっている俺だったけど、愉快気に笑っている彼女の真っ白な首筋を目にして感情に駆られた。


そういえば俺、いつも痕を付けているけど、付けられるってことはないな。

どうせなら少しでも未練がない方がいい。


「先輩。俺もいいっすか?」

我が儘を言っていい? と、相手に許可を求める。
 

顔を上げて視線をかち合わせてくる彼女に、「付けてみていいっすか?」と首筋を指先でノックする。

面食らった彼女だけど、すぐにはぁあっと重いおもい溜息を吐かれた。

え、なんか不味いこと言ったっすか?


「なあ空。あたしのやったケータイ小説は読んでいるか?」

「あ、一応」


貰った半分もまだ読んでない、とは口が裂けても言えなかった。



「なら分かるだろ。あたしの溜息の意味。もし分からないならっ…、その鈍感を調教してやる!」



うぇええいっ、すんませんっ、分からないド阿呆っす!

目を泳がせ、へっらっと誤魔化し笑いを浮かべた。

カチンときたのか、「煽っているんだ」低い声で先輩が唸ってきた。

「はい?」聞き返す俺に、「だから今のは!」あたしを煽る発言なんだ! 怒声を張ってくる。

なるほど肉食お嬢様には煽られるようなフレーズだったらしい。

す、すんません。
べつにそういう意味は無かったんっすけど。


「やっぱりスるか?!」


無理やりカッターシャツをたくし上げようとする先輩に全力でタンマをかける。

それはなし、なしっすから! エッチ反対! 公共の場でのエッチとかろんがーい! 小説では有りかもしれないっすけど、リアルじゃ怒られるレベルじゃないっ、退学になる!
  

必死の思いでシャツを押える俺に舌打ちをし、先輩が無理やり俺の上体を起こした。
 

で、シャツのボタンを上二つまであけて、ほらと視線を投げてくる。

途端に羞恥が出てきたのは俺の気のせいじゃない。

自分で言っておきながらなんだけど、恥ずかしいってもんじゃないぞこれ!

人の体に痕を付けたいとか、どんな卑猥!
最後なのは分かっているけど、それにしたってなんのイベントだよこれ!


ジーッと相手の首筋を見据えていた俺だけど、

「空。顔がトマトになっているぞ」

真っ赤っかになっていることを先輩に指摘され、脳内が爆発した。死にたい。