「あの時は喧嘩をしてしまって何もできなかったが、最後にキスしてくれないか。キスマークもつけておきたいんだが」
これで最後にするからと頼まれた。
呆気取られてしまう。そして俺は承諾に躊躇いが出た。
もし今、此処で彼女の我が儘を聞いたら俺の方が持たなくなりそうだ。折角の決心も決壊しそう。
だけど強い眼で見つめられたら、俺は首を縦に振るしかない。
今の鈴理先輩を拒んだら、俺よりも彼女の方が崩れそうな気がしたから。
嗚呼、やっぱりこの人を傷つけたんだなって俺は自覚させられる。
「最後っすから」
これが終わったらただの先輩後輩っす、念を押して俺は彼女を受け入れる。
返事は無かった。
代わりに唇を食まれる。
久々の口付けは触れるものから、すぐに深いものに変わった。
呼吸を奪うというより、相手の呼吸を取り入れるようなキスをしてくる先輩。
激情に駆られているのだと容易に察することができる。
俺に息継ぎをさせてくれない。
いつもだったら苦しいとギブアップをするところだけど、今回は先輩の気が済むまで付き合うことにした。これが最後だから。
薄っすら目を開ければ、先輩越しに木漏れ日が目を射してくる。
綺麗な光景だと思った。
世界で一番、美しい光景と言っても過言じゃない。
目前の女性が綺麗なんだ。
木漏れ日が際立つのも頷ける。
キスしながら俺のネクタイに手を掛けてくる先輩の器用さに目で笑い、俺はそっと腕を持ち上げて彼女の後頭部に手を回した。
より深くなるキスは欲の深さと比例しているように思える。
人間って貪欲だけど、俺達もまた貪欲な人間なんだろう。
最後だって思うと普段じゃ辿り着けない欲の深さまで落ちてしまうんだから。
舌を食まれて、歯列をなぞられて、重ね合わせて。
そうやって欲を交わしている時間が永遠に続けば良いと思った。
きっと先輩も同じことを思っているに違いない。
一旦離れた唇を、もう一度食んでくるんだから。
終わるようで終わらないキス。
一体どれくらい欲深いキスを交わしたかは分からないけど、永遠なんてない。終わりは必ず訪れる。
今度こそ離れていく唇が、人の首筋や鎖骨に移動した。
こんなに長い間キスなんてしたことないから、俺は酸欠も酸欠。
忙しなく肩を動かして呆然と宙を見つめる。
やっべ、死にそう。
俺、途中からキスって方法で殺されるかと思ったんだけど。溺れた、キスに溺れた。ぶくぶく。



