前略、肉食お嬢様②―カノジョな俺は婿養子―



「空は責めないんだな」


鈴理先輩の声が丸び帯びた。

それは引っ叩いたことに対してだろうか? それならべつに責めるつもりはない。

どんな形であれ、俺は先輩の努力を頭から否定し、彼女を傷付けたんだから。

意味合いを込めて責めないと言うけど、「責めろ」でないと居た堪れない、鈴理先輩が泣き笑いを零した。

頼むから責めてくれと懇願される。


それもできない願いだった。

俺には彼女の何処を責めないといけないのか分からないから。
 

直後、抱き締められる。

押し返さないといけない、そう思っても彼女の微動する体がそれを拒んでいた。

おかげで俺は拒絶することができない。

耳元で詫びられたらもう、ほんっと、どうしていいか分からなくなる。

俺は恋愛のエキスパートじゃないんだ。

こんな状況下に置かれたら、例え決意があっても混乱してしまう。
 

「辛い時に独りにした」


本当にすまない、鈴理先輩が繰り返し謝罪文を羅列してくる。

守ると言ったのに、辛い時に傍に居てやれなかった。守れなかった。引っ叩いてしまった。空、すまない。

そう謝罪してくる彼女に、俺は間を置いて、

「先輩は優しいっすね」

俺、あんなに酷いことをしたのに。
先輩の顔を覗き込んで一笑する。


「貴方の努力を踏み躙るような発言をしたのに、それを責めないんですね。俺こそ責めて欲しいっすよ」
 

微苦笑を零してくる鈴理先輩は、そのことに触れず、「やっぱり体は駄目か」本当にセックスを狙っていたんだが、と雄々しい発言をしてきた。
 
せめて空の童貞はあたしが頂戴しようと思っていたんが…、と言われたら、なんともムードが台無しである。

どーしてこの人はそういう発言しかできないのかな。


そりゃ俺は童貞だけどさ。

チェリーボーイだけどさ。


女性が軽々しくそれを言うのもどうかと思うよ。相手が鈴理先輩だからって割り切っているけど。
 
溜息を零していると、「痕。消えそうだな」先輩が俺の首筋を人差し指でなぞってくる。

時間が経てばキスマークだって消えるもの。

これはしょうがないことだ。

目で彼女に訴えると、「なあ空」彼女が憂い帯びた笑みを浮かべてくる。