「空は責めないんだな」
鈴理先輩の声が丸び帯びた。
それは引っ叩いたことに対してだろうか? それならべつに責めるつもりはない。
どんな形であれ、俺は先輩の努力を頭から否定し、彼女を傷付けたんだから。
意味合いを込めて責めないと言うけど、「責めろ」でないと居た堪れない、鈴理先輩が泣き笑いを零した。
頼むから責めてくれと懇願される。
それもできない願いだった。
俺には彼女の何処を責めないといけないのか分からないから。
直後、抱き締められる。
押し返さないといけない、そう思っても彼女の微動する体がそれを拒んでいた。
おかげで俺は拒絶することができない。
耳元で詫びられたらもう、ほんっと、どうしていいか分からなくなる。
俺は恋愛のエキスパートじゃないんだ。
こんな状況下に置かれたら、例え決意があっても混乱してしまう。
「辛い時に独りにした」
本当にすまない、鈴理先輩が繰り返し謝罪文を羅列してくる。
守ると言ったのに、辛い時に傍に居てやれなかった。守れなかった。引っ叩いてしまった。空、すまない。
そう謝罪してくる彼女に、俺は間を置いて、
「先輩は優しいっすね」
俺、あんなに酷いことをしたのに。
先輩の顔を覗き込んで一笑する。
「貴方の努力を踏み躙るような発言をしたのに、それを責めないんですね。俺こそ責めて欲しいっすよ」
微苦笑を零してくる鈴理先輩は、そのことに触れず、「やっぱり体は駄目か」本当にセックスを狙っていたんだが、と雄々しい発言をしてきた。
せめて空の童貞はあたしが頂戴しようと思っていたんが…、と言われたら、なんともムードが台無しである。
どーしてこの人はそういう発言しかできないのかな。
そりゃ俺は童貞だけどさ。
チェリーボーイだけどさ。
女性が軽々しくそれを言うのもどうかと思うよ。相手が鈴理先輩だからって割り切っているけど。
溜息を零していると、「痕。消えそうだな」先輩が俺の首筋を人差し指でなぞってくる。
時間が経てばキスマークだって消えるもの。
これはしょうがないことだ。
目で彼女に訴えると、「なあ空」彼女が憂い帯びた笑みを浮かべてくる。



